今回はリアサスペンションのプリロード(イニシャル)調整について説明します。
さて、せっかく調整機能があるんだしリアサスペンションのセッティングをしてみよう! と思っても何を基準にどう調整して良いのかわからない方も多いと思います。
身近に詳しい人がいれば相談するのが一番ですが、サスペンションに関してはライディングとサスペンションシステム双方の知識や経験を必要とするため、一般のバイク屋さんに相談しても解決しないことが多いと思います。
そこで今回は、街乗りからスポーツ走行までを対象に、自分でセッティングを行うためのヒントを記事にしたいと思います。
はじめに:サスペンションのセッティングは、ある程度の理論と実走での感覚で進めていきます。
バイクもサスも機械なのでセッティングによる力学的な結果は決まっているわけですが、それが乗り手の身体感覚に合うか否かがとても大切です。
物理的にバイクが速く動くようになっても身体感覚がそれについていけないなら身体は無意識に緊張し、走りも重くぎこちないものなってしまいます。
逆に物理的にバイクはゆったり動いていても、それが身体感覚に合っているなら走りは寧ろ軽快になったりもします。
サスセッティングを行う最初の目的は何より「自分が乗りやすいと感じる状態」を探すことにあります。
↑ リアショックユニットの画像。
赤い部分がバネで、中心の黒い円筒形の部分が減衰器(ダンパー)です。
【目次】
- リアサスのプリロードって何?
- リアサスペンションのプリロードを変更するとバイクの車体姿勢が変化する
- セッティングの違いを体感してみるためのセッティング
- 自分の体重や荷物の重量に合わせてプリロードを変更する
- 好みのハンドリングに合わせてプリロードを変更する
- 困った症状に合わせてプリロードを変更する
リアサスのプリロードって何?
プリロードとは初期荷重の意味で、リアショックのバネを機械的に締め込み予め縮ませておくことを言います。
では、プリロードをかけると何が起きるかを下に図解します。
↑ 実際はライダーが跨るとフロントフォークも縮みますが、今回はわかりやすいようにフロントは固定しています。
また、図中の「空車時の車体姿勢」は荷重0、つまり宙吊りの状態を指しています。
図の解説をしますと、空車状態でプリロードをかけてもバネ部分が縮むだけでリアショック長は変わりません。(リアショック本体がそれ以上伸びないため)
よって、空車状態ではプリロードをかけてもかけなくても、車体姿勢は一切変わりません。
次に、上から荷重(車体重量+ライダーの体重)を乗せることで、はじめてバネが縮みリアの位置も下がります。
ここでプリロードが最弱であれば、リアサスは大きく縮みリアの位置も大きく下がります。
そうすると残りの縮みしろが少なくなるので、走行中に大きな荷重が加わると受け止められなくなりますが、逆に荷重が抜けた時は伸びしろが多い分、サスが大きく伸びる動きやすいセッティングになります。
逆にプリロードをかけていると、プリロードの分だけバネの縮み量が少なくなるのでリアの位置も高止まりします。
こちらは縮みしろが多いので、走行中に大きな荷重がかかってもしっかり受け止めますが、伸びしろは少ないので大きな荷重がかからない時は、サスがあまり動かないセッティングになります。
リアサスペンションのプリロードを変更するとバイクの車体姿勢が変化する
走行時のリアサスペンションは慣性や路面の影響を受けて絶えず伸び縮みします。
具体的に言えば、ブレーキ時に伸び、旋回時に縮み、加速時はリア周りのアンチスクワット効果があるためあまり動きません。
路面の凹凸を踏めば跳ねや伸縮運動を起こします。
リアサスペンションのプリロードの調整を行う目的は、リアショックの縮み過ぎによる底付きを避け、同時に走りやすい車体姿勢を作る事にあります。
↑ リアサスペンションのプリロードを変更することで、ライダーが乗った時のリアサスペンションの留まる位置(高さ)が変わります。
その結果、バイクのリアの高さのみならず、重心位置やフロントフォークの角度などにも変化が生じることで、操縦安定性や前後のタイヤのグリップにも影響が生じます。
↑ リアのプリロードを掛けた場合の車体姿勢 ※わかりやすく極端に表現しています。
リアのプリロードをかけると、ライダーがバイクに乗った時のサスの沈み込み量が少なくなるのでリアの車高が上がります。
リアの車高が上がると荷重がリアからフロントに移るので、その分だけフロントの車高は少し下がります。
結果としてバイクの姿勢としては「後ろ上がり・やや前下がり」となり、以下の変化が生まれます。
・前輪の荷重が増え、後輪の荷重が減る。
・後ろ上がりの結果フロントのキャスター角が小さくなり、トレール量が減る。
・軸間距離(ホイールベース)が短くなる。
・重心位置が上に移動する。
・スイングアーム垂れ角が大きくなり、アンチスクワット効果が強くなる。
・リアサスの縮みしろが増え、伸びしろが減る。
・リアが受け止められる荷重の限界が上がる。
↑ リアのプリロードを抜いた場合の車体姿勢 ※わかりやすく極端に表現しています。
リアのプリロードを抜くと、逆にサスの沈み込み量が大きくなるのでリアの車高が下がり、バイクの姿勢としては「後ろ下がり・やや前上がり」となります。
結果としてバイクの姿勢に以下の変化が生まれます。
・前輪の荷重が減り、後輪の荷重が増える。
・後ろ下がりの結果フロントのキャスター角が大きくなり、トレール量が増える。
・軸間距離(ホイールベース)が長くなる。
・重心位置が下に移動する。
・スイングアーム垂れ角が小さくなり、アンチスクワット効果が弱くなる。
・リアサスの縮みしろが減り、伸びしろが増える。
・リアが受け止められる荷重の限界が下がる。
セッティングの違いを体感してみるためのセッティング
基本的な理屈がわかったところで、実際に何から始めるべきかを書いていきます。
サスペンションセッティングをするにあたって、最初に行うべきことは「ここの調整をこうすればこう変化する」というのを大雑把に理解するための試しのセッティングです。
方法はいたって簡単で調整箇所を一か所づつ「最強」と「最弱」にして走ってみて違いを確かめるというだけです。
サスによって調整箇所が「車高調整」「プリロード」「伸び側減衰」「圧側減衰」と複数あるものもありますが、複数箇所を同時に変更すると違いの原因が何なのかわからなくなるので、試す場合は必ず一か所づつ変更します。
プリロードの場合は一度「最弱」にして走ってみて、次に「最強」にして走ってみる事で、二つの違いを体感的に確認するわけです。
注)セッティング変更後はバイクの動き方が変わるので試走する際は十分に気を付けてください。特に社外サスは調整幅が広いので変化もかなり大きくなります。
プリロードを変更するとバイクに跨った際のサスペンションの初期縮み量が変わります。
その結果バイクの前後の姿勢バランスが変わる事で、曲がり方や走行の安定感、前後のタイヤの感触などに変化が生じます。
変更後に走って確認した結果は忘れないうちにメモに残しておきましょう。
サスセッティングにおいて、感じたことを自分の言葉で書き残すことも大事なことです。
セッティングを試すための実走で重要なことは、必ず「同じコースで同じように走って確認する」ことです。
セッティング毎に別の場所で走ったり違う走り方をしてしまってはセッティングの結果を正しく把握する事はできません。
一番良いのは10m~20m間隔の8の字で行う事です、8の字は低速で走るためリスクが低い上にセッティングの結果がわかりやすいのでおすすめです。
サーキットで行う場合もなるべくコース全長が短く、平均速度が低いサーキットから始めるのが良いでしょう。
ちなみに峠は勾配が大きいため平坦な場所とは違う結果になるので注意しましょう。
自分の体重や荷物の重量に合わせてプリロードを変更する
バイクのリアショックのプリロードには初期設定値と想定体重があります。
車種によって初期設定値と想定体重は異なりますが、例としてCB250Rの場合は初期設定値は【2】となっており、想定体重は55kgです。
つまり、自分の体重が55kgを大きく超える場合や重い荷物を載せる場合は、リアの車高が低くなってしまうのでプリロードをかけて(数字を上げて)補正すると良いわけです。
プリロード調整でリア車高を補正する事で、リアサスペンションの底付きや伸び切りを予防し、メーカーが想定した標準的なハンドリングを維持することができます。
ただしメーカーが想定した標準的なハンドリングが自分の好みや走行目的に一致するとは限りません。
そういった場合は改めてプリロードの変更を行う必要があります。
プリロードの初期設定値はバイクの取扱説明書に記載されていますが、想定体重は記載されていないので知りたい場合はバイク屋さんに聞くかバイクメーカーに問い合わせる必要があります。
ちなみにバイクメーカーの問い合わせサポートに「自分の体重と推奨プリロード」を尋ねると回答してくれる場合もあるので問い合わせてみるのも手です。
また、サグ出しという測定方法もありますので、知りたい方はリンクの別記事を読んでください。
好みのハンドリングに合わせてプリロードを変更する
リアショックのプリロードを調整する事で、バイクの前後の姿勢が変化しハンドリング特性を変える事ができます。
ハンドリングとは走行中のステアリング(ハンドルや前輪)の動き方の事で、安定感や曲がりやすさに直結します。
また、バイクの姿勢が変化することで前輪と後輪の荷重の配分が変わり、実グリップおよびグリップ感を変えることができます。
リアのプリロードをかけた場合
・ロールに対するステアリングの応答が鋭くなる。
・前輪のグリップが増し、後輪のグリップが減る。
・前輪から強く曲がるようになる。
・ステアリングの安定感が低下し切れ込みやすくなる。
※フロントのプリロードを抜くことでも同様の効果が得られます。
リアのプリロードを抜いた場合
・ロールに対するステアリングの応答がゆったりになる。
・前輪のグリップが低下し、後輪のグリップが増す。
・曲がり方が弱くなる。
・ステアリングの安定感が増し切れ込みにくくなる。
※フロントのプリロードをかけることでも同様の効果が得られます。
ゆったり走りたい時はリアのプリロードを抜き、鋭く走りたい時はプリロードをかけると良いでしょう。
困った症状に合わせてプリロードを変更する
実走行において何か困った症状が現われた場合にリアのプリロード調整を行って対策する方法です。
受動的な方向での調整と言えますね。
※走行時に発生する問題の原因は複雑なので正解を保証するものではありません、参考として読んでください。
症状:バイクを倒し込むとステアリングが早く切れ込み曲がりにくい。
対策:リアのプリロードを抜く。
リアのプリロードを抜くと、結果的にフロントのキャスター角が大きくなりトレール量が増えるのでステアリングの動きに落ち着きが出ます。
ステアリングの切れが早すぎて怖い、倒し込みにくいと感じたらプリロードを抜いてみましょう。
ステアの切れ込みはタイヤの空気圧が低い場合や摩耗が進んでいる場合にも起きるのでタイヤの状態を確認することも大切です。
リアの車高調整を下げる、フロントのプリロードをかける、Fフォークの突き出しを減らすことでも対策できます。
症状:小径ターンや切り返しでステアの動きが初期はダルくて後半で切れ込む。
対策:リアのプリロードをかける。
小径ターンや切り返しで、ステアリングの応答は鈍い(遅い)のに不必要に大きく振れるような違和感がある場合の対処法です。
リアのプリロードをかけて、前輪のトレール量を減らし復元トルクの変動を抑えることで、ステアリングの応答を素直な状態に戻します。
この症状はリアサスのガス抜けでも起こります。
リアの車高調整を上げる、フロントのプリロードを抜く、Fフォークの突き出しを増やすことでも対策できます。
症状:ターンやコーナーで曲がり方が弱い。
対策:リアのプリロードをかける。
リアのプリロードをかけると、結果的にフロントのキャスター角が小さくなりトレール量が減るのでステアリングが切れやすくなり強く曲がるようになります。
曲がり方は強くなるが、ステアの動きに落ち着きがなくなり切れ込みも起きやすくなるので気を付けましょう。
リアショックユニットのガスが抜けると同じ症状がでます。
リアの車高調整を上げる、フロントのプリロードを抜く、Fフォークの突き出しを増やすことでも対策できます。
症状:深くバンクさせたいがステップやブーツがすぐに接地してしまう。
対策:リアのプリロードをかける。
リアの車高と一緒にステップやブーツの位置も高くなり接地しにくくなるので深くバンクさせられるようになります。
接地の問題をプリロードで改善するのはあくまで対症療法で、根本的に改善するならステップを位置の高い社外品に交換しましょう。
リアショックのガス抜けや、タイヤの空気圧不足でも同じ症状がでます。
リアの車高調整を上げることでも対策できます。
症状:リアサスが底付きを起こしてリアタイヤが滑る。
対策:リアのプリロードをかける。
リアのプリロードをかけるとサスの縮み側ストロークの余裕が増えるので底付きしにくくなります。
リアサスが底付きしやすい場面はコーナリング中に強く加速した場合と、大きな段差から落ちた場合です。
コーナリング中に底付きするとリアが滑りやすくなり、段差から落ちた場合だと腰にガツンと強い衝撃がきます。
プリロードを最強までかけても底付きする場合はバネを高いレートのものに交換する必要があります。
この症状もリアショックのガス抜けで発生しやすくなるほか、タイヤの空気圧や剛性が高い場合にもやや発生しやすくなります。
リアの圧側減衰をかけることでも対策が期待できます。
症状:倒し込みや切り返しが重い。
対策:リアのプリロードを抜く。
重心を下げリアに荷重を乗せやすくすると同時に、リアサスの伸びの動きを大きくする事で倒し込みや切り返しを軽快にすることができます。
上体を伏せ過ぎていたり、チェーンが張り過ぎている場合も重くなる症状が出るので気を付けましょう。タイヤの空気圧不足も原因になります。
サスの伸び側減衰を抜くことでも対策が期待できます。
症状:リアタイヤのグリップが弱い、滑り出しが早い。
対策:リアのプリロードを抜く。
リアのプリロードを抜くとリアの車高が下がり荷重が乗りやすくなるので、リアタイヤのグリップが得やすくなります。
反対にフロントタイヤのグリップは弱くなりやすいので気を付けましょう。
リアタイヤの摩耗や劣化、タイヤ空気圧の不適正、チェーンの張り過ぎでも同じ症状がでます。
また、リアの減衰は強すぎても弱すぎてもグリップに悪影響がでます。
症状:コーナリング後半の加速区間でリアが滑りやすい、曲がらない。
対策:リアのプリロードをかける。
リアのアンチスクワット不足が考えられるので、プリロードをかけてアンチスクワットを強くしてみます。
アンチスクワット不足とは、リアの車高が下がりスイングアームの対地角度が小さくなることで、加速時のリアサスの踏ん張りが弱くなる現象です。
原因としては、プリロードよりも車高調整を低くした場合に発生しやすいです。
また、アンチスクワットが強すぎる場合は、フロントタイヤが外に逃げやすい症状が出てしまいます。
※リアのグリップの問題は、リアプリロードのかけ過ぎや車高の上げ過ぎによる荷重不足、リア車高の下げ過ぎによるアンチスクワット不足、減衰の劣化や不適正、その他、など複数の原因が考えられますので、状況を具体的にみて判断する必要があります。
症状:フロントタイヤの接地感が弱い、滑り出しが早い。
対策:リアのプリロードをかける。
リアの車高を上げてフロントの荷重配分を増やすことで、前輪のグリップと接地感を改善させます。
フロントタイヤの摩耗や劣化、タイヤ空気圧の不適正でも同じ症状がでます。
フロントのプリロードを抜く、Fフォークの突き出しを増やすことでも対策できます。
症状:リアシートに荷物や人を乗せるとステアリングの動きが不安定になった。曲がりにくくなった。
対策:リアのプリロードをかける。
リアが重くなって車高が下がり過ぎた分をプリロードを締める事で補正します。
ただし総重量や重心位置の変化までは補正できないので、完全に元に戻るわけではありません。
症状:停車時に足が地面に届きにくくて不安。
対策:リアのプリロードを抜く。リアのプリロードを抜くとリアの車高が下がることで足つきが少し良くなります。
といっても、リアのプリロードの初期設定値が【2】だったりする場合は一段しか下げられません。
また、タイヤの空気やリアショックのガスが抜けると勝手にリア車高が下がって足つきが良くなってしまいます。
何もしてないのにバイクの足つきが良くなってしまったら、タイヤやリアショックの圧抜けを疑いましょう。
リアの車高調整を下げることでも対策できます。
まとめ:今回の記事を読んでいただけるとわかるように、サスペンションのセッティングはある程度進めていくと「何かが良くなると別の何かが悪くなる」ようになってしまうものなのです。
つまりサスペンションのセッティングとは最終的に「何をとって何を捨てるか」を自分で決めなければいけない、という事なのです。
また、サスセッティングは一度決めたらそれで終わりとは限りません。
例えば、タイヤを別銘柄に替えた、走る場所が変わった、自分のライディングが変化した(上達した)、といった場合に、今まで感じなかった問題が出てくることもあります。
そのように走る状況が変わって新たな問題が生じれば、サスセッティングもそれに合わせて見直す必要が出てくるわけです。
リアのプリロードだけで変更できる効果はそれほど多くはありません。
他にスプリングレートの変更、フロントのプリロード調整、油面(空気バネ)調整、車高調整、減衰調整などが加わると更に幅広いセッティングが可能になります。
それだけに、リアのプリロードは奥深いサスセッティングの最初の入り口でもあります。
バイクのさらなる楽しさの追求のために是非リアのプリロード調整に挑戦してみてください!
その他、サスペンションのセッティングはこちら ↓
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