今回はバイクのフロントフォークのフォークオイル油面のセッティングです。
フロントフォークオイルの主な役割はフォークの伸縮運動の抑制(減衰)にありますが、実はもう一つの重要な意味を持っています。
フロントフォークの中にはフォークオイルが入っていますが、満杯に満たされているわけではなく、上部は空(空気室)になっています。
この空気室内の空気は、フロントフォークが荷重を受けて縮む際に圧縮され反発力を生み「空気バネ」としての効果を発揮します。
つまり、フロントフォークの動きは「金属バネ(スプリング)」と「空気バネ」の二つの反発力の合計によって決定されていると言えるわけです。
フロントフォークの動きが変わればバイクの走行時の車体姿勢が変化するため、バイクの運動性や前後のタイヤのグリップ力などに変化が現われます。
【目次】
【フロントフォークはどのような場合に縮むのか?】
フロントフォークは主にフロントブレーキをかけた時に大きく縮みます。
走行中にフロントブレーキをかけて減速する→前方方向に慣性力が働きフロントの荷重が増える→荷重増でフロントフォークが大きく縮む、という理屈です。
また、旋回時には遠心力の影響でフロントフォークが縮みますし、段差から落ちた時にも縮みます。
↑ 一定速度で走っている車体は基本的には水平に近い姿勢になっています。
↑ フロントブレーキをかけると慣性力が前方に働く事でフロントフォークが荷重で縮み、車体が前のめりの姿勢になります。
この時、フロントフォーク内の空気が圧縮されます(=空気室が小さくなる)。
↑ フロントフォークの内部を見ると、ブレーキでフォークが縮んだ時に空気が圧縮され反発力を生んでいます。
気体である空気は外部から荷重(圧力)を受けると体積が小さくなり、体積に反比例して反発力としての圧力が増加する特性を持っています。
ちなみにフォークオイルは液体なので荷重を受けても体積は変化しません。
※実際のフォーク内には金属バネも入っていますが省略しています。
【フォークオイル油面変更による空気バネの効果】
(1)空気バネの反発力は空気の体積に反比例して大きくなる。
↑ 空気は圧縮され体積が小さくなると、それに反比例して圧力(反発力)は大きくなる特性を持っています。
空気の体積が2分の1になると反発力は2倍、体積が4分の1になると4倍になります。
例えば、上の図のように空気室の長さが10cmのフロントフォークがあったとします。このフォークを5cm縮ませるために必要な荷重を50kgと仮定すると、そこから更に2.5cm縮ませるためには100kgの荷重が必要となり、また更に1.5cm縮ませるためには250kgの荷重が必要となります。
つまり、空気バネによる反発力はフロントフォークが縮むにつれて奥の方で急激に立ち上がるようになるわけです。
この空気バネの特性は荷重が小さい時にはフォークがよく縮み、荷重が大きくなると奥で踏ん張ってくれるという、バイクにとって都合の良い働きとなってくれています。
(2)油面の高さを上げて空気の体積を小さくすると、空気バネの反発力が早く立ち上がるようになる。
↑ これは油面の高さと空気バネの反発力の関係を表わした図です。
空気の体積が1/2になると反発力は×2 という法則のため、油面を上げると少ないフォーク縮み量で反発力が立ち上がるようになります。
つまり図で見る通り、油面を上げて空気室の高さを半分(10cm→5cm)にすると、同じ荷重を与えた時のフォークの縮み量も半分になります。
フォークオイルの油面が低ければ、空気バネは弱くなりフォークが縮みやすくなります。
逆に油面が高ければ、空気バネは強くなりフォークが縮みにくくなります。
※実際のフォークの縮み方は金属バネの動きとの合算になるので上記の説明と同じにはなりませんが、空気バネ単独の動きとして理解しておきましょう。
【油面の高さを変更した場合の効果】
油面を上げた場合
フロントブレーキを強くかけた時のフロントフォークの縮み量が少なくなることで、ステアリングの応答が落ち着くようになります。
また、より大きな荷重に耐えられるようにもなります。
反面、前輪のグリップや接地感が弱くなったり、曲がりにくくなる可能性もあります。
アクセルオフや弱ブレーキ時のフォークの縮み量にはあまり影響がなく、フロントブレーキを強くかけた時ほど効果があります。
上げ過ぎるとフロントフォークが硬く感じ、つっぱり感を感じるようになります。
油面を上げるべき場合
・コーナリングの進入において、ブレーキング初期のFフォークの動きに問題はないが、ブレーキの後半ではFフォークが縮み過ぎフロントが不安定になる。あるいはFフォークが底付きを起こしてFブレーキを強く掛けられない。
・急制動において、Fフォークが底付きを起こして前輪が滑りそうになる。またはFフォークが縮み過ぎ前のめりになることでジャックナイフ状態になりやすい。
油面を下げた場合
フロントブレーキを強くかけた時のフロントフォークの縮み量が増えます。
アクセルオフや弱ブレーキ時のフォークの縮み量にはあまり影響がありません。
結果、強くフロントブレーキをかけた時の車体姿勢がより前下がりになり、フロントの内向力が強くなります。
反面、ステアリングの応答が不安定になったり、耐えられる荷重が減りフォークが底付きを起こしやすくなる可能性もあります。
下げ過ぎるとフロントフォークの踏ん張り感がなくなり、つんのめり感が強くなります。
油面を下げるべき場合
・コーナリングの進入において、ブレーキング初期のFフォークの動きに問題はないが、ブレーキの後半でFフォークが十分に縮まず旋回力が得られない。あるいはFフォークが十分に縮まないため前輪のグリップが得られずFブレーキを強く掛けられない。
・急制動において、Fフォークが十分に縮まないため前輪のグリップが得られずFブレーキを強く掛けられない。つっぱり感が強い。
※フォークオイルの油面(オイルレベル)の変更を行う場合は、最初はノーマルの油面を基準に±5mm~10mm程度から試してみることをおすすめします。
【フォークフルボトム時の空気バネ反発力の計算方法】
空気バネの値の計算方法を紹介します。
計算に必要な情報は「フロントフォークの内径」「フロントフォークストローク量」「フォークオイル油面高さ(オイルレベル)」の三つです。
・計算式
(フォークストローク量+油面高さ)÷ 油面高さ = 空気圧縮比
フォーク内径 ×(空気圧縮比-1) = 空気バネ反発力
具体的な例として、以下のフロントフォークの空気バネ反発力を計算してみます。
(15+11)÷ 11 = 2.36
(2×2×3.14)×(2.36-1) = 17kg
上の計算式はフロントフォーク一本の値です。
左右のフロントフォークの油面が同じならば(×2)となるので、空気バネの合計反発力は34kgとなります。
※実際はフォーク内の金属バネやカラーなどの体積が影響するため、上記の計算からズレが発生します。
金属バネ(スプリング)を抜いた状態で油面を決め、後からバネを入れると油面は数cm上がります。
ちなみに理論的には上の計算の通りですが、一般的に油面調整を行う際に上記の計算を行う事はほとんどありません。
体感的な評価やストロークセンサーを頼りにして油面を変更すれば十分です。