今回はフロントフォークのプリロード調整について説明します。
ちなみにフロントサスペンション=フロントフォークであり、またプリロードはイニシャルとも呼ばれます。
フロントフォークの内部にはバネとオイル減衰機構が組み込まれており、それらの働きによりタイヤを凸凹な路面に追従させる、上からの荷重を受け止め車体姿勢を変える、路面の衝撃からライダーとバイクを守る、といった機能を持っています。
フロントのプリロード調整の目的の第一は、フルブレーキによるフロントフォークの底付きを回避するためです。
フォークが底付きするとフォークが自由に伸び縮みできなくなるため、路面追従性が失われ前輪が滑りやすくなります。
そして第二の目的は、走行中のバイクの車体姿勢の制御です。
走行中のバイクの姿勢は、加減速による慣性の力や旋回時の遠心力によって絶えず変化しており、状況に応じた車体姿勢を作ることでバイクの「走る、曲がる、止まる」性能を引き出すことができます。
【目次】
- フロントサスペンションのプリロードとは
- フロントフォークのプリロードを変更するとバイクの車体姿勢が変化する。
- フロントのプリロード調整で最初にすべきこと。
- 好みのハンドリングに合わせてプリロードを変更する。
- 困った症状に合わせてプリロードを調整する。
↑ 大抵のバイクのフロントプリロード調整はフロントフォークトップキャップに装備されている(画像はCB400SF)。
車種によるがフロントの調整機構はリアと違い、アフターパーツで簡単に後付けが可能なものも多い(ちなみにCB250Rは現在のところ後付けパーツが無いようです…)。
その他、手間はかかるが、Fフォークの中に入っているスペーサー(カラーともいう)を、短く切ったり嵩増しする方法もあります。
フロントサスペンションのプリロードとは
フロントフォーク内部は「金属バネ」「空気バネ」「減衰機構」の三つで構成されており、プリロードとは「金属バネ」を予め機械的に縮ませておくことを言います。
では、金属バネを予め縮ませるとフォークの長さ(=バイクのフロントの高さ)にどのような影響があるのかを説明しましょう。
※今回はプリロード調整がテーマであるため、空気バネと減衰の影響は省略します。
↑ 上の図はプリロードをかけていないFフォークの動きです。
中のバネは、荷重10kgにつき1cm縮む(これをバネ定数という)と想定しています。
この場合は荷重0kg超からフォークが縮み始め、荷重100kgでフォークが底付きします。
↑ 次に上の図はプリロードを5cmかけたFフォークの動きです。
中のバネは同じく、荷重10kgにつき1cm縮むと想定しています。
つまり、予めプリロードで5cm縮めているということは、最初から50kg分フォーク内のバネが縮んでいることと同じになります。
この状態では、Fフォークは荷重50kgを超えたところから縮み始めるようになります。
その結果、荷重50kg超からフォークが縮み始め、荷重150kgでフォークが底付きします。
プリロードをかけないFフォークに比べて、かけた方は縮みにくいかわりに、受け止められる荷重の限界が高くなっていると言えますね。
※フォークオイル油面(=空気バネの強さ)を変えると、小さな荷重から縮み始め、且つ大きな荷重も受け止められる特性にできますが、この方法ではFフォークが縮むにつれて急激にバネが硬くなる症状がでやすくなります。
以上の結論としては、ライディングにおいてFフォークに大きな荷重を与える場合(乗り手の体重が重い、Fブレーキを強くかける等)はプリロードをかけ、逆に荷重をあまり与えないならばプリロードを抜いた方がよいとなります。
また、二つの図の内容を見てのとおり、中のバネの縮み量は与えられた荷重のみで決まり、Fフォーク自体の最大可動域はプリロードに関わらず同じ、ということがわかると思います。
Fフォークの最大可動域が同じなので、当然Fフォークの伸び切り時と底付き時のバイクの車体姿勢もプリロードに関わらず同じです。
伸び切りと底付き時から車体姿勢を変えたい場合は、Fフォークの突き出し量を変更する必要があります。
フロントフォークのプリロードを変更するとバイクの車体姿勢が変化する。
フロントフォークは、まず車重(+ライダーの体重)が乗ることで縮みます。
そして走行中においては、ブレーキによる減速と旋回中の遠心力によって縮み、アクセルオンによる加速で伸びます。
そして、路面の凹凸の影響を受けて伸縮運動を起こします。
フロントフォークが伸びたり縮んだりすれば、それに合わせてバイクの車体姿勢が変化し操縦安定性(ハンドリング)や運動性に大きな影響を与えます。
プリロードを変更すれば車体の姿勢を予め変えておくことができるため、自分の好みや目的に合った操縦安定性や運動性を引き出すことができるようになります。
この「車体姿勢」こそがライディングとサスセッティングの基本となります。
・前輪の荷重が減りグリップ力が下がる。
・後輪の荷重が増しグリップ力が上がる。
・Fフォークのキャスター角が大きくなり、トレール量が増える。
・重心位置が上がる。
・Fフォークが伸びバイクのフロントが高くなる(リアは少し下がる)。
・軸間距離(ホイールベース)が長くなる。
・Fフォークの縮みしろが増え、伸びしろが減る。
・前輪の荷重が増しグリップ力が上がる。
・後輪の荷重が減りグリップ力が下がる。
・Fフォークのキャスター角が小さくなり、トレール量が減る。
・重心位置が下がる。
・Fフォークが縮みバイクのフロントが低くなる(リアは少し上がる)。
・軸間距離(ホイールベース)が短くなる。
・Fフォークの縮みしろが減り、伸びしろが増える。
【リアのプリロード調整との違いは?】
フロントのプリロードをかける事とリアのプリロードを抜く事は、車体姿勢的には同じような変化になるので走行特性の変化も似た結果となります。
同じく、フロントのプリロードを抜く事とリアのプリロードをかける事も同様に似た結果となります。
大きく違う点は、重心位置の変化のしかたと、フロントのプリロードはリアのアンチスクワットにはほとんど影響を与えないということです。
フロントのプリロード調整で最初にすべきこと。
フロントのプリロード調整の第一の目的はフルブレーキ時のフォークの底付き防止にあるので、最初にやるべきことは急制動テストでフォークがどのくらい縮むのかの確認です。
方法は簡単で、フォークのインナーパイプに結束バンドを巻いて自分が出来る限りの急制動を行ってみます。
※専用コースで本格的にスポーツ走行を行う場合は実際にコースを走って確認してください。
↑ まずフォークのインナーパイプに結束バンドを巻きつけます。画像は倒立フォークなので結束バンドの最初の位置はパイプの上側ですが、正立フォークの場合は下側になります。
結束バンドは左右のフォークのどちらに付けても構いませんが、締め付けが緩いと勝手に下がってしまうので、程ほどに締め付けておきましょう。
全屈の位置はフォークが縮む限界の位置です。CB250Rのフォークの全屈は画像の位置ですがバイクによって違います。
正確な全屈位置はフォークからバネを抜いて底付きさせることで確認できます。
↑ 結束バンドを巻いたら安全な場所で自分の出来る限りでよいので急制動を行います。
そうすると、結束バンドがアウターパイプに押されて位置が下がるので急制動時のフォークの縮み量が確認できます。
理想はフォークの全屈位置から1~2cmほど余裕があるところなので、画像の位置は丁度よい具合です。
↑ 急制動の結果、フォーク全屈位置まで結束バンドが下がっていたら底付きしています。
フォークがここまで縮むと動きが悪くなって、タイヤが路面を追従できずに跳ねたり滑ったりと危険な状態が発生しやすくなります。
プリロードをかけることで対策してください。フォークオイルの油面を上げることでも対策できます。
↑ 急制動の結果、結束バンドがこのくらいしか下がらなかった場合はフロントの位置が高止まりしているので、前輪のグリップを引き出せていない、コーナーでしっかり曲がらない状態になってしまっている可能性があります。
こうなる原因はフォークが硬すぎるか、ブレーキが甘いかのどちらかです。
フォークのプリロードを緩めるか油面を下げることで奥まで縮むようになりますが、自身のブレーキが甘い自覚があるなら練習することをおすすめします。
ちなみに、まともな状態のスポーツバイクなら、40km/h急制動で5m、50km/h急制動で7.5mくらいで止まる事ができます。
好みのハンドリングに合わせてプリロードを変更する。
急制動テストでフォークの縮み量に問題がなければ、プリロード調整でハンドリングの味付け変えてみるのも良いでしょう
フロントのプリロードをかけた場合
ロールに対するステアリングの応答が穏やかになる。
ステアリングの安定感が増し、切れ込みにくくなる。
前輪のグリップが低下し、後輪のグリップが増す。
曲がり方が弱くなる。
※リアのプリロードを抜くことでも同様の効果が得られます。
フロントのプリロードを抜いた場合
ロールに対するステアリングの応答が鋭くなる。
ステアリングの安定感が低下し、切れ込みやすくなる。
前輪のグリップが増し、後輪のグリップが減る。
曲がり方が強くなる。
※リアのプリロードをかけることでも同様の効果が得られます。
困った症状に合わせてプリロードを調整する。
走行中に問題を感じた場合はプリロード調整を行って改善を試みましょう。
※必ず改善する保証はありませんので参考としてお読みください。
症状:フロントブレーキ入力初期でフォークが急に沈むので怖い。
対策:プリロードをかける。
プリロードが不足していると、スロットル全開→フルブレーキでこの症状が起こりやすくなります。
プリロードをかけてバネを予め縮ませることで、ブレーキ入力時のフォークの最初の動きを抑えることができます。
ただし、弊害として前輪のグリップや接地感が弱くなる、旋回力が落ちる、といった症状が出やすくなるので、その場合はリアのプリロードも併せてかける必要があります。
症状:フロントブレーキ時の前輪の接地感やグリップが弱い。
対策:プリロードを抜く。
フロントのプリロードを抜きフロント荷重を増やすことで、前輪の接地感やグリップを増やします。
弊害として、Fフォークが底付きしやすくなる、ステアリングの応答が不安定になるといった症状が出る場合があります。
ちなみに、この症状はタイヤの劣化や摩耗、減衰の問題(フォークオイルの劣化や調整ミス)でも顕著にでます。
症状:ターンやコーナリングでステアリングが切れ込む。
対策:プリロードをかける。
プリロードをかけてフロントのキャスター角を大きくしトレール量を増やすことで、ステアリングの応答を穏やかにします。
切れ込みが緩和され曲がりやすくなる一方、曲がり方は弱くなる(旋回ラインが膨らむ)結果となります。
症状:ターンやコーナリングで曲がり方が弱い。
対策:プリロードを抜く。
プリロードを抜いてフロントの位置を下げることでバイクの旋回力を高めます。
ただし、フロントを低くしすぎるとステアリングの応答が不安定になる、バイクを倒し込みにくくなるといった症状が出ます。
タイヤの摩耗や劣化でも旋回性は低下します。
症状:ターン進入や切り返しでステアの応答が遅い、鈍い。
対策:プリロードを抜くorプリロードをかける。
プリロードを抜いてフロントのキャスター角を小さくしトレール量を減らすことで、ステアリングの応答を鋭くします。
しかし、フォークが動きすぎることが原因となっている場合は逆にプリロードをかけて対応します(この場合はリアのプリロードも併せてかけた方がよいです)。
症状:小径ターンでステア応答が初期はダルくて、後半で余計に切れ込む感じがする。
対策:プリロードを抜く。
プリロードを抜いてトレール量を減らすことで、ターン初期の応答を良くし、ステア切れ角に対する前輪の復元力の変動を抑えます。
症状:フルブレーキでフォークが全屈(底付き)する。
対策:プリロードをかける。
プリロードをかけてFフォークの縮みしろを増やし、受け止められる荷重を大きくします。
フルブレーキでフォークが底付きすると前輪の滑りや跳ねが発生しやすくなります。
前輪が滑るとステアリングの復元力が急激に失われるので転倒を起こしやすくなります。
ただし、フロントのプリロードをかけると弊害として前輪のグリップや接地感が弱くなる、旋回力が落ちる、といった症状が出やすくなるので、その場合はリアのプリロードも併せてかける必要があります。
フォークの底付きはフォークオイルの油面を上げる事でも対策可能です。