リプレイス品に交換することで、見かけも音もパワーも変わるマフラーのカスタムはバイクカスタムの定番といってよいでしょう。
カスタム後の効果のわかりやすさから、とりあえず新しいバイクを買ったらマフラーを交換するというライダーも少なくないのではなかろうか?
マフラーの役割は「消音」「排ガスの無害化」「エンジンパワーの調整」の3つであるが、ではノーマルマフラーからリプレイスマフラーに交換することで一体何が変わるのか?
今回は、そんな知られているようで知られていない(?)マフラー交換の基本について記事にしていきます。
※ノーマルマフラー=新車時についているバイクメーカー純正のマフラー。
※リプレイスマフラー=バイク用品店などで売っているカスタム用マフラー。
【目次】
・リプレイスマフラーに期待できる5つの効果
エンジンの出力(パワー)特性の変化
マフラーを交換することでエンジンの出力特性を変えることができる。
どのように変わるのかはマフラーと装着車種によって違いがあり、高回転域の最大パワーを重視したものもあれば中低速域の中間パワーを重視したものもある、トルクの谷を解消して走りやすくなるものもあるし、出力的にはあまり変わらないものもある。
スリップオンタイプよりもフルエキゾーストタイプの方が効果が大きい。
エンジン出力を目的にマフラーを交換する場合は、狙った効果があるのかどうかを予め確認しておこう。
※一番下にパワーグラフの見方も紹介するので参考にしてほしい。
また、リプレイスマフラーの特性に合わせて燃調や点火時期をリセッティングすると効果は更に上がる。
エンジンの空燃比やパワーを計測してECUやサブコンのセッティングを行う必要があるので、それなりの手間やお金がかかるが本格的にエンジンの性能を追求するなら必要である。
バイクの軽量化
ほとんどのリプレイスマフラーはノーマルマフラーよりも軽量な構造をしている。
特にバイクの重心から離れた位置にあるサイレンサーの軽量化は、走りの軽快性向上に大きな効果がある。
どのくらい軽量化できるかは、マフラーと装着車種によって結構違いがあり、2kg軽くなるものもあれば10kg以上軽くなるものもある。
同じ5kgの軽量化でも車重の軽いバイクの方が効果は高い。
重量はほとんどのメーカーが公式サイトの製品紹介で公開しているので見てみよう。
排気音の変化
サイレンサーの消音性能が変わるので、排気音の音量や音質がかわる。
基本的には音量は大きくなり、音質は低音化するものが多い。
製品によっては動画で音が公開されているものもあるので、自分の好みに合うかどうか参考にしてみよう。
リプレイスマフラーが奏でる官能的なエキゾーストノートに思う存分酔いしれよう!
外観の変化
リプレイスマフラーは材質も変わればデザインも変わる。
特にチタン製のマフラーは独特な虹色の輝きを放つので、バイクの高級感と存在感がぐんと上がる。
カーボン製にするとレーサーらしい雰囲気になるし、落ち着いた上質感が欲しいならステンレス製も良い。
リプレイスマフラーで魅力を増した愛車を一人眺めてうっとりするもよし、友人知人に見せびらかせて悦に浸るもよし。
腐食しにくい
多くのノーマルマフラーのエキゾーストパイプは腐食に対してあまり強くなく、経年で錆びてしまうことも多い。
それに対してリプレイスのチタン製エキゾーストパイプは極めて安定した性質を持っておりほとんど腐食することはない。
ステンレスも錆びに強いが、チタンに比べると耐熱性に劣るため多少腐食する可能性がある。
・起こると困る5つのデメリット
乗りにくくなる事もある
近年のリプレイスマフラーは乗りやすさも重視して開発されているので、それほど心配する必要はない。
しかし、製品によっては高回転域のパワーが上がるかわりに中低回転域が非力化したり、ある回転域で急にパワーが立ち上がるピーキーな特性になったりするものもある。
エンジンの過渡特性の問題で、無視できない場合は燃調や点火時期の変更で改善する必要があるが必ず解決するとは限らない。
エンジンの調子が悪くなることもある
排気の状態が変わる事でノーマルECUの燃調(空燃比)とズレてしまうのが主な原因。
燃調のズレが招く症状は色々あるが、加減速の違和感や乗りにくさだけでなく、エンジン内の汚れや損傷を早める場合もある。
スリップオンよりフルエキゾーストの方が起きやすい。
公道用マフラーよりレース用マフラーの方が起きやすい。
改善にはFI車の場合はサブコンやECU書き換えによるセッティングが必要で、これらの作業を専門に行うショップも存在する。
キャブレター車の場合はキャブレターを分解してセッティングする。
サブコンやキャブレターのセッティングは自分でも行えるが、正しく行わないとエンジンを壊すので、詳しくなければお店に相談した方がよい。
ちなみにマフラーを製作しているメーカーは世界中に数多くあり、中には粗悪品や一流品を装ったニセモノも出回っている(特にネット)
そんなものをバイクに付けるとエンジンを壊しかねないので怪しい製品には手を出さないようにしよう。
整備性が悪くなるものも存在する
リプレイスマフラーに交換したら、オイルフィルターやドレンボルトにアクセスできなくなったから、オイル交換の度にマフラーを外さなくてはいけなくなった…という事もある。
他にも装着するには、センタースタンド等の取り外しやステップの交換が前提になっているものもある。
メーカー公式サイトで整備性への影響が公開されているものもあるが、情報がなければ問い合わせるなりして確認しておいた方がよい。
車検に通らなくなることも…
マフラーの役割である「消音」と「排ガスの無害化」は法律で定められた規制である。
リプレイスマフラーでも「JMCA認証」「政府認証」「車検対応」「公道走行可」などと表示されているものなら車検は問題なく通る。
ただし、リプレイスマフラーの消音材は圧力や水分によって経年劣化するので、そうなると音量が大きくなってしまい車検に通らなくなることがある。
劣化対策としてはサイレンサーをオーバーホールして消音材を交換するか、車検のときだけノーマルマフラーに交換するかしかないだろう。
「レース専用」「公道走行不可」と表示されているものは車検に通らない。
こちらもほとんどのメーカーが公式サイトで情報を掲載している。
転倒で傷をつけた時のショックは大きい…
高価で美しいマフラーほど、転倒でキズをつけたり凹ませた時の心理的ダメージも大きくなるだろう。
リプレイスマフラーでバイクの性能は上がったのに、マフラーを傷付けるのが怖くて思い切り走れないというジレンマに陥ることになるかもしれない。
まぁ、これはマフラーに限った話ではないけれど…
・スリップオンとフルエキゾースト
リプレイスマフラーには、サイレンサー部分のみ交換するスリップオンタイプと、エキゾーストパイプから交換するフルエキゾーストタイプがある。
↑ スリップオンタイプ (写真はアールズギア製)
サイレンサーのみ交換するタイプでフルエキゾーストに比べ値段が安い。
スリップオンだけでも外観や音はかなり変わるし、軽量化も十分期待できる。
↑ フルエキゾーストタイプ (写真はアールズギア製)
スリップオンよりも出力特性の変化が大きい。
パイプの部分から美しくなるし更に軽くなるが、値段も高い。
・ノーマルとリプレイスの構造の違い。
ノーマルマフラーとリプレイスマフラーの役割は基本的に同じだが、構造には大きな違いが存在する。
↑ ノーマルサイレンサー内部は上図のようなステンレス製の多段膨張室の構造を持っており、各膨張室を通過する排気が膨張→収縮を繰り返すことでエネルギーを減衰させ音量を下げている。
この構造は消音性能が経年劣化しないという長所を持っているが、構造が大型で複雑なので重量が大きくなってしまう。
また、排気の通りが悪くなるのでエンジン出力の面でやや不利になる。
↑ リプレイスサイレンサー内部は上図のように、穴の開いたパンチングパイプと消音材で構成されており、消音材が音波を吸収することで音量を下げている。
この構造の長所は、排気がストレートに抜ける事と構造が単純なので軽量化できる事にあるが、消音材の経年劣化により消音性能も低下するという欠点を持つ。
・パワーグラフの見方(一例)
マフラーメーカーの中には出力特性の変化をパワーグラフで公開しているところがある。
パワーグラフは計測時の、気温、気圧、湿度、アクセルの開け方、個体差、などの影響を受けるので、すべての状況で同じ結果になるわけではない。
しかし性能の参考にはなるので、ここではパワーグラフから何を読み取る事ができるのかを一例ではあるが簡単に説明してみる。
※今回はアールズギアから画像を拝借して説明することにする。
ちなみにグラフの赤線がリプレイスマフラーで、青線がノーマルマフラーとなっている。
数値はグラフ下部がエンジン回転数、左が出力、右がトルク、となっている。
↑ これはZRX1200ダエグのフルエキゾーストマフラーのパワーグラフ。
典型的な高回転パワー重視のマフラーで、中低速域は2500回転あたりの小さな谷が改善されているくらいで大きな変化はない。
アクセルを全開にしたときのパワーと加速を楽しむためのマフラーといえる。
↑ こちらはレブル250のフルエキゾーストマフラーのグラフ。
ダエグのマフラーとは真逆の中低速パワーを重視したタイプ。
最高出力にはほとんど変化がないが、3000~7000回転の実用域でパワーが上乗せされている。
街乗りやツーリングで最も効果を得られるので、レブルのユーザーに合わせて設計されたのだろう。
ちなみに、大雑把にいうとトルク×回転数=出力なので、グラフからもその関係が読み取れる。
↑ ZZR1400のスリップオンマフラー。
高回転域のパワーも上乗せされているが、特徴的なのが低速域の変化。
1000~4000回転のトルクに2カ所の谷があって、それが出力にも反映されている。
マフラー交換で後半の谷は解消されているが、前半の谷は逆に大きくなっている。
ここから、アイドリング→発進はノーマルよりもたつきやすいが、発進後の実用域はスムーズかつパワフルになっていると予測できる。
↑ これはCB400SFのスリップオンマフラー。
見ての通り出力的に大した変化がない。
カスタムの目的が外観と音で、出力特性はノーマルのままでよいという人向け。
アールズギア製のスリップオンは他にもあり、そちらは出力特性ももう少し変わる。
ちなみに、グラフの6500回転あたりでパワーがガクッと一瞬落ち込んで、その後急に立ち上がっているのはVTECの影響である。