メンテナンス初心者がバイクや車の整備に挑戦して、早々に突き当たる壁がボルトやナットのトルク管理ではないだろうか?
車両のボルトやナットには、サービスマニュアル指定の締め付けトルクが定められている。
少しくらいならズレていても問題はないが、締め付けが緩すぎると走行中にボルトナットが緩んでしまうし、かといって強く締め過ぎるとネジ山が変形してしまい、それがまた緩みや破損の原因になってしまいます。
また、ボルトナットの締結箇所によっては、締め付けトルクを誤る事で操縦安定性の悪化を招く場合もあります。
そこで登場するのがトルクレンチというトルク管理専用工具!
↑ 東日製作所のトルクレンチ、東日製作所はトルクレンチ専門メーカーである。
そこで「よし!トルクレンチを買おう」と思っていろいろ情報を探してみると、大抵こんな情報が目に入ってくるのではないだろうか?
・トルクレンチは精密機械、精度のためにしっかりした製品を買うべき。
・正確な精度を維持するには定期的な校正が必要(有料)。
・トルク範囲別に2~3本そろえる必要がある。
・安物のトルクレンチは精度に不安があるのでやめた方がいい。
そこであなたは次のように悩むだろう…
「調べてみると上等なトルクレンチは1万円以上するんだな…たまにしか使わない工具に1万円かぁ…でも安物を使うのは何となく不安だし、どうしよう…」
そりゃ、上等なトルクレンチを買うのが一番いいし、安物でも使わないよりはずっといい。
しかし、今回は敢えてトルクレンチが無い場合のトルク管理の方法を紹介します。
トルクレンチの代わりにバネ測りを使う簡易的な方法ではありますが、手の加減で締めるよりはずっと確実な方法なので参考にしてみてください。
【トルクの意味】
トルク管理の前にトルクが何なのかについて知っておく必要があります。
トルクとはボルトナットを締める際にかかる回転力の大きさのこと。
1メートルのレンチにボルトを噛ませて、もう一方の端に1kgの力を加えるとボルトには10N・mの回転力(トルク)が掛かります。
加える力が2kgならば、ボルトに掛かるトルクは20N・mになります。
※レンチの長さはボルト中心点と力点の距離で測る。
レンチの長さがすべて1mであれば理解は簡単ですが、実際のレンチの長さは様々です。
レンチが長いほど、同じ力を加えたとしてもトルクは大きくなり、逆にレンチが短ければトルクは小さくなります。
仮にレンチが50cm(1mの半分)であれば、トルクも半分になります。
↑ レンチが50cmなら、ボルトに10N・mのトルクをかけるのに必要な力は2kgになる。
もし、力が1kgのままなら、ボルトにかかるトルクは5N・mになる。
力×レンチの長さ×0.1=トルク となっているのが理解できると思います。
そこで、実際の作業では指定のトルクをかけるのに必要な力を計算で求める必要があります。
↑ の計算式から、指定トルクとレンチの長さがわかれば、必要な力を求めることができます。
【作業に必要なもの】
・吊り下げ式バネ測り(ひょう量20kg以上のもの)
↑ デジタル吊りばかり(高森コーキ製 ¥1,800)
アナログ式でも構わないが、デジタル式の方が使いやすいです。
↑ メガネレンチは両方がメガネになっているものが使いやすいです。
【トルク管理の方法】
必要な情報はサービスマニュアル記載の指定トルクと、使用するレンチの長さです。
レンチの長さはメガネレンチ両端の距離を定規で測ればわかります。
サービスマニュアルとは、その車種専用の整備手引き書のことでバイク屋さんで注文すれば購入できます。高いですけどね…
サービスマニュアルがなくても、行きつけのお店で聞けば教えてくれる場合もあります。
ネットでググって見つけた情報は…間違っている事もあるのでお薦めしません。
↑ 例えば、長さ18cmのレンチを使ってボルトを10N・mのトルクで締めたい場合に必要な力は下の式で求められます。
(100÷18)× 10 × 0.1 = 5.5
吊り測りの目盛りが5.5kgになるまで引くと、ボルトに10N・mのトルクを掛けることができます。
作業の要点はレンチと吊り測りの角度を90°にすることと、ボルトと平行になるように引くこと。
↓ CB250Rのオイルドレンボルトの例
CB250Rのエンジンオイルのドレンボルトの指定トルクは24N・m。
使用しているメガネレンチの長さは18cm。
(100÷18) × 24 × 0.1 = 13.3の計算結果から、吊り測りの目盛りが13.3kgになるまで引けばよい事がわかります。
【スピンナハンドルを使う方法】
スピンナハンドルを使う方法もあります。
↑ スピンナハンドルと吊測り。
↑ スピンナハンドルの柄にゴムシートを貼って、適当な長さで印を付けます。
今回は15cmで印を付けましたので、レンチの長さは15cmになります。
↑ 印の箇所でD型リングを固定します。
今回は結束バンドを3本使いましたが、固定できれば針金でもなんでもいいです。
ゴムシートとD型リングは、ホームセンターで購入できます。
ゴムシートは貼りやすいように粘着シート式がよいでしょう。
↑ このように使います。
計算式は(100÷15)× 指定トルク × 0.1 で求めることができます。
【この方法の長所と短所】
長所
・安価かつ良好な精度でトルク管理ができる。
・吊り測りの精度の点検が簡単(重さのわかる物体を吊るして確認すればいい)。
・吊り測りは普段は普通の測りとして使える。
短所
・計算が必要で、作業もやや面倒。
・目盛りを見ながら作業しなければならない。
・測りを引くための空間が必要。
・目盛りを横から見ながら引く必要があるため、アクスルナット等の大トルク箇所には不向き。
結論を言えば、作業性を考えれば素直にトルクレンチを買った方が良いでしょう。
ただし、上等なトルクレンチは高価であるし、安価な物は精度が落ちたときの校正ができない。
かといって、素人が手の感覚だけでトルクを出すのは不可能に近い…という場合の代替方法として見れば使い道のある方法かと思います。
今まで何となく手感覚でボルトナットを締めていたという方は参考にして頂きたいと思います。