近頃はバイクのABS技術もだいぶ進化し、性能だけでなく価格や重量の面でも普及しやすいものになってきました。
また、ついに2018年から126cc以上の新型の二輪車にはABSの装着が義務付けられ、ラインナップを見て見るとABS搭載モデルしかない!という状態にもなってきています。
現在のところ、まだABSの搭載/未搭載の選択が可能なモデルもありますが、徐々にABS搭載モデル一択になっていくでしょう。
さて、今回はバイクのABSの有効性とデメリットについて書いていきたいと思います。
これからバイクを購入するに当たってABS搭載車にしようかどうか迷っている方も是非参考にしてください。
※当記事は現在のABSについて述べています、過去のモデルについては事情が異なる場合があるのでご注意ください。
【目次】
- 【ABSの目的と仕組み】
- 【じゃあ、どんな時にブレーキを誤ってタイヤをロックさせるのか?】
- 【ロックしてコケたらどうなるの?】
- 【ABSが作動すると制動距離が伸びるって聞いたんだけど…】
- 【車種によってABSの性能に差はあるの?】
- 【ABSのデメリットって何?】
- 【結論】
【ABSの目的と仕組み】
ABSとは「アンチロックブレーキシステム」の事です、和訳すると「ロック防止機能付き制動装置」といったところでしょうか。
ロックというのはブレーキを強く握り(踏み)過ぎた結果、ブレーキの制動力がタイヤのグリップ力を越えてしまい、ホイールの回転が止まった状態でタイヤが路面を滑ってしまっている状態の事を指します。
バイクにおいてこのロック状態が発生すると、以下の二つの危険な現象が起きてしまいます。
・前輪の復元力が失われることに加えて、タイヤの横方向の滑りに対するグリップが無くなるので簡単にすべって転倒してしまう。
特に操舵を担当する前輪のロックは即転倒になりやすいので非常に危険です。
・ブレーキ機構が持つ、バイクの運動エネルギーを熱エネルギーに変換する機能が失われるので、転倒しなかったとしても制動距離が伸びる。
ABSが付いているとコンピューターが前後のホイールの回転差からロックを検知し、自動的にブレーキ圧を抜いたり加えたりを高速で繰り返してくれます。
これによってロックを回避し、ロックによる転倒や制動距離の延長を防止してくれるわけです。
つまりABSとは「誤ってブレーキを強く握り過ぎた時に、ロックを防止し安全かつ短い距離で停止してくれる装置」であると理解してください。
※ただし一般的なABSはバンク中(旋回中)の横滑りに対しては効果を発揮しません。
↑ ホイールの中央あたりにある黒っぽい穴の開いた輪っかがホイールの回転を検出するためのパルサーリングです。コレがついていればABS搭載車ということです。
【じゃあ、どんな時にブレーキを誤ってタイヤをロックさせるのか?】
それは主にパニックブレーキ時です。
パニックブレーキとは、道を走っていて急に動物が飛び出してきた等の予期しない状況で心理的に緊張してしまい、思わずブレーキレバーを強く握り過ぎてしまう事をいいます。
タイヤがすり減っていたり、路面が濡れていたりすると更にロックを招きやすくなります。
パニックブレーキは心理的な要因が大きいので、運転の上手い下手はあまり関係がありません。
また、パニックブレーキではなくても、冬の雨の日にマンホールの上でブレーキをかける、など悪条件が重なってしまうと、いつも通りにブレーキをかけたつもりでも思いがけずツルッとタイヤが滑ることもあります。
一度タイヤがロックして怖い思いや転倒して痛い思いをすると、それがトラウマになって次からブレーキをしっかり掛けられなくなってしまう事もあります。
ロックを恐れてフロントブレーキをあまり使わない(使えない)ライダーも少なくないようですが、それではいざという時に止まる事ができずに事故になってしまいます…
そのような場合でも、ABSがあればロックの心配がないので、いつでも安心してブレーキをしっかりかけることができます。
【ロックしてコケたらどうなるの?】
フロントタイヤがロックすると高確率で即転倒します。
つまり時速80kmでフロントがロックすると時速80kmの勢いで転倒する事を意味します。
直進でもそのくらいの勢いで転倒するとライダーは頭部や肩を路面で強打した後に、頭を前にして15mくらい滑走していきます。
転倒したバイクの方はライダーより抵抗が小さいので40m以上路面を滑走していきます。
しかも転倒する時は左右のどちらかにステアが切れて倒れるので滑走方向は必ずしも直進にはなりません。
自分とバイクが反対車線やガードレールに向かって勢いよく滑っていくのは大変な危険と恐怖です…
ABSが効けば20m弱の直進で止まれるところなので、その差は非常に大きいと言えます。
リアがロックした場合は、直進中であれば大抵は制動距離が伸びるだけなのでフロントほど危険ではありませんが、それでも転倒する場合もあるので油断は禁物です。
【ABSが作動すると制動距離が伸びるって聞いたんだけど…】
はい、確かにすごくブレーキが上手な人の場合は、ABSが無い方が短く止まる事ができます。
制動距離は最終的にタイヤのグリップ力に依存するのですが、タイヤの進行方向のグリップ力というのはタイヤが10~20%ほど滑っている状態が一番高くなるんです。
滑ってるのにグリップするってどういう事?とちょっと不思議ですが、タイヤの摩擦の仕組みからそうなります。
取り合えずタイヤが少し滑っている方がバイク自体はよく止まるものだと理解しましょう。
つまり、ブレーキ操作における理想はタイヤが10~20%ほど滑っている状態を停止するまで続ける事なのですが、ABSが作動すると圧力を断続的に抜く動作が発生するので、その分制動距離が伸びるというわけです。
ちなみに上手い人がABS搭載モデルと非搭載モデルで本気でブレーキを行った場合、実際どのくらいの差が出るのかというと60km/h急制動で11.7m(ABSなし)が 12.2m(ABSあり)になるくらいです。約5%というところですね。
この結果は「白バイライテク大百科」という雑誌に掲載されていたもので、白バイ全国大会の優勝選手がCB400SFのABS搭載モデルと非搭載モデルで実験したものです。
当然一般のライダーならABSを作動させた方が圧倒的に短く止まれます。
それに上記のようなブレーキ実験は万全の環境で行っているので、実際の公道でも同じように出来るかというとかなり疑問です。
ABSに関しては搭載されていた方が間違いなく安全と考えて良いと思います。
【車種によってABSの性能に差はあるの?】
車種によって作動性や作動タイミングの設定に違いがあります。
高性能なABSの方がABSを効かせた時の制動距離が短くなります。
サーキット等でのスポーツ走行においてはキックバックの静粛性以外にも、どのくらい滑りが発生した時にABSが作動するのかという介入のタイミングも問題になってきます。
作動タイミングが早いとブレーキを限界まで使う事ができなくなり、コーナー進入時のブレーキ開始ポイントを早めざるを得なくなるのでタイムロスになってしまいます。
その他、最近はIMUというバイクの傾きや慣性を検知するセンサーを搭載したモデルが存在していて、このセンサーが搭載されているとコーナリングのバンク中でもABSを有効に効かせる事が出来る、急ブレーキ時のリアの浮き上がりを自動的に防止してくれる、といった効果があります。
※IMU非搭載の普通のABSはバンク中の横滑りに対しては効果を発揮しません。
【ABSのデメリットって何?】
・バイクの車両価格が上がる。
ABSが装備されている分バイクの値段が高くなります。
非装備モデルとの差が小さいものでも3万円以上は高くなります。
現在はABSの装備が義務化されたことで、非装備モデルがラインナップからほとんど消えたので比較する必要もなくなりましたが…
・車両重量が増加する。
最近は技術の進歩によりABSも軽量化が進んでいますが、それでも2~3kgの重量増は避けられません。
バイクの重量が増すと、加速が悪くなったり、倒し込みや切り返しが重くなるなど運動性の面で悪影響があります。
しかし、ABSモジュレータがバイクの重心に近い位置に設置されていることと、重量的にもバイク全体の1~2%にしかならないことで現実的にはほとんど影響はなく、一般のライダーが乗り比べてもABS装備車と非装備車を体感的に判別することはほぼできないと思います。
※旧モデルの中古車の場合は、10kg重くなる車種もあります。
・場合によってはライディングのジャマになる。
- 先に述べたようにスポーツ走行においてはABSが不必要に介入し、ブレーキの限界が落ちてしまう場合があります。
- バンクによる前後輪の回転差をロックと誤認してABSが作動してしまう事があります。一種の誤作動でフルロックやフルバンクで旋回すると勝手にブレーキが解除されてしまいます。
- ABSの作動によるキックバックがスライドコントロールの邪魔をするので、ブレーキターンが困難になります。
- リアブレーキを踏むと自動的にフロントブレーキも作動してしまうタイプのブレーキシステム(コンバインドABS)が装備されている車両では、Uターン時にリアブレーキを使って速度調整をしようとするとフロントブレーキが勝手にかかってステアが切れ込んで転倒してしまう危険があります。
ABSのキャンセル機能がないモデルでも、ABSの配線を外せばキャンセルすることは可能ですし、ABSユニット自体を取り外して軽量化することも可能です。
ただし配線を外すとコンピュータにエラーが発生するので、エラーまで解除するのは結構手間がかかります。
【結論】
ABSは公道での安全面から考えると絶対的にあった方が良いでしょう。
ただ、現実的にどの程度ABSの作動により助けられる機会があるかといえば、そうそう無いと思います。
例えば四輪自動車にはABSとシートベルトとエアバッグがほぼ必ず装備されていますが、実際にそれらの装備が作動して助けられる事って滅多にないですよね。
それと同じでバイクのABSも普通に走っている限りは作動する事ってそうそう無いものなのです。
しかし、万が一の場合は生死を分ける装備にもなり得るので無いよりはあった方が絶対に良いと考えられるわけです。
それに加えてロックの心配をせずに安心して急ブレーキをかけられるという心理的な恩恵も大きいと思います。
ABSが搭載されたバイクを買ったならABSが実際に作動するまでブレーキをかける練習をしておきましょう。
しっかりブレーキをかける練習にもなりますし、ABS作動時の挙動は予め知っておいた方が良いからです。
※ブレーキの練習はくれぐれも他人の迷惑にならない安全な状況で行ってください。
このようにABSの意義は大きいものですが、バイクというのはライディングを楽しむ目的で乗るものなので、ABSが邪魔するせいで肝心のスポーツ走行が楽しめないよ…となるくらいなら無い方が良いとも言えます。
そのあたりは自分がバイクに乗る目的や環境に合わせて選択するのが良いでしょう。