バイクに乗って街乗りやツーリングをするのは楽しい時間ですが、バイクも機械である以上メンテナンスを怠れば徐々に傷んでしまいます。
多くの初心者ライダーはバイクの整備はバイク屋さんにお願いすることでしょう。
もちろん、そのままずっとバイク屋さんにお任せしていても良いのですが、出来れば自分でやってみたいと考えている方もいることと思います。
そこで必要になるのが工具なのですが、何から買えばよいのかわからない方も多いはずです。
今回は「これからバイクの整備に挑戦したい!」と考えている方に向けて、最初に揃えるべき工具について簡単な解説つきで紹介していきたいと思います。
注意:今回の記事は国産車の整備を対象にしています。外車や国産車でも旧車に分類されるバイクには当てはまりませんのでご注意ください。
【目次】
最初に揃えるべき工具
これからバイクの整備に挑戦することを前提に、最初に揃えておくべき工具を紹介します。
最初に揃えておくべきといっても、必ず最初にすべて買う必要はなく順次必要なものを買い足していっても結果的にこれらの工具が早い段階で揃うことになると思います。
また、今回紹介する工具だけで実際の整備がすべて出来るわけではないので、必要なものは追って買い足す必要があります。
【メガネレンチとオープンレンチ】
メガネレンチ・・・8mm×10mm、12mm×14mm
オープンレンチ・・・8mm×10mm、12mm×14mm、17mm×19mm、
レンチを選ぶ際に最も重要なのはサイズ(長さ)です。レンチは必ず長さが標準的なものを選ぶ必要があります。
特にメガネレンチにはショート、ロング、超ロング、と長さ別にラインナップがあるわけですが、ボルトナットを適切な力で締めることができるのはロングだけだからです。
要するに「ロング=標準サイズ」なわけですが、メーカーによって呼称が違う場合があります。
ショートは狭所作業性、超ロングは大きな力をかけることに長じていますが、適切な力で締め込むことには向いていません。
ショートタイプのレンチでボルトナットを締めると走行中の振動ですぐに緩んでしまいますし、超ロングタイプを使うとネジが潰れて壊れてしまうおそれがあります。
また、メガネレンチは画像のようにメガネ部分に曲がりがある45°オフセットタイプが使いやすいです。
※正しく説明すると正確な力(トルク)でボルトを締め付けるにはトルクレンチが必要になります、あくまでレンチの中では標準サイズを選ぶべきということです。
【六角棒レンチ】
4mm、5mm、6mm
こちらもメガネレンチと同様、長さ別のラインナップがあるのでロング(標準)サイズのものを選んでください。
ショートタイプはあくまで狭所作業用です。
画像(下)のように長い方の棒の先がボール型になっているタイプの方が、斜めにかけてもボルトを回せるので使いやすいです。
重整備になると8mm以上も必要になるので、その時に買い足しましょう。
【プラスドライバー】
PH2(=2番)
誰でも知っている工具ですが、実は先端のサイズによって番手が違います。
バイクの整備で必須となるのは2番(PH2)ドライバーで、1番や3番、マイナスはたまに出てくるくらいです。
因みに画像のドライバーはどちらもKTC製ですが特性に違いがあります。
下のドライバーは固着したネジでも緩められるようにレンチをかけたりハンマーで叩いて回せる機能がありますが、重くて角ばっているので使いやすさは劣ります。
上のドライバーは機能的にはシンプルですが、軽くて回しやすい形状をしているので使いやすく作業性に優れています。
【スピンナハンドル】
差込口3/8インチ(=9.5mm) 柄の長さが30~38cmくらいのもの。
スピンナハンドル(ブレーカーバー)は差込口が3/8インチ(=9.5mm)で 柄の長さが30~38cmくらいのものが使いやすいでしょう。
大きなトルクをかけるのに向いている工具で、ソケットを交換することで幅広いサイズのボルトに対応できます。
基本的に固くなったボルトナットを緩めるための工具で、締める目的では力加減が難しいので使わない方が良いです。
一本持っておくと心強い工具です。
【ソケット】
12mm、14mm、17mm、19mm、22mm、24mm
※差込口3/8インチ(=9.5mm)のもの
スピンナハンドルやトルクレンチに装着するためのソケットです。
メガネレンチにも17mm以上のものはありますが、スピンナハンドルとソケットで揃えた方が安上がりです。
12mmと14mmはメガネとソケット両方で持っておいた方いいと思います。
角数が6角と12角のものがありますが、12角のほうがボルトにかけられる角度が多いので使いやすいです。
6角の方がボルトをナメにくいと言われますが、ちゃんとしたメーカーの製品であればほとんど差はありません。
※ただし既にナメかけたボルトを回す場合は6角の方がよい。
高さの高いものはディープソケットと呼ばれますが、作業をしやすいのは普通のタイプで、深い場所にボルトがある場合はディープを使います。
ボルトナットを緩める時はスピンナハンドルに取り付けて使い、締める時はトルクレンチに付けて使いましょう。
後述のT型レンチやラチェットハンドルとの組み合わせでも活躍します。
【計測器具】
定規とノギス
整備に使う計測器具もいろいろありますが、取り合えず定規とノギスくらいは買っておきましょう。
ボルトナットの頭を測れば、必要な工具のサイズがわかります。
長さは15~20cmくらいのもので構いません。
あとはタイヤ用の空気圧ゲージを買うと良いです。
【トルクレンチ】
トルク設定範囲が 20~110N・m くらいのもの
差込口3/8インチ(=9.5mm)のもの
ネジの締め付けを正確に行うために必要な工具です。
トルクレンチを上級者向けの高価な工具と思っている方もいますが、そんなことはありません。
一本4000円程度の安価なものでも十分使えますので購入しましょう。
特にブレーキ周りや足回り(アクスルやスプロケット)のボルト類が緩むと大事故に直結するので、慣れないうちは(慣れてもですが…)必ずトルクレンチを使うようにしましょう。
トルク設定範囲別に2~3本持つのが理想ですが、最初は取り合えず20~110N・m くらいのものを1本買うと良いと思います。
ボルトの緩めに使ってはいけない、保管時は最弱目盛りに合わせておく、狂ったら校正が必要、など使用上の注意がいくつかあるので、購入したら取扱説明書は必ず読んでください。
ちなみに画像のトルクレンチは東日製の「MTQL140N」(¥25,600)という製品で、20~140N・mのワイドレンジタイプです。
【その他の道具】
パーツクリーナー、トレイ、ウェス、小型ライト、ピックアップツール
狭い場所に落としてしまったボルトナットを拾い上げるための小型ライトと磁石式ピックアップツールです。
ボルトが1本拾えなくなっただけで作業が止まってしまうこともあるので、予め用意しておくと心強い工具です。
パーツクリーナーとウェス(ペーパーウェスや布切れ)は油で汚れたパーツを洗浄するために必要です。
作業内容に応じて必要になる特殊工具
【特殊工具】
整備内容に応じて必要なものを買う。
特殊工具とは用途が限定されているが、それがないとその作業ができない工具のことです。
例えば、カートリッジ式オイルフィルターを交換するためのオイルフィルターレンチや、ブレーキキャリパーのオーバーホールに必要なピストンツール等です。
ナメたネジを回すショックドライバーやツイストソケット等の緊急工具もこれに含まれると思います。
これらの工具は作業内容に応じて買い揃える必要があります。
【メンテナンススタンド】
ホイールやサスペンションの着脱に必要なメンテナンススタンド。
バイクを水平に安定させられるので軽整備でも使えば整備がしやすくなります。
定番はJトリップ製ですが、アストロプロダクツ製も使えます。
ノーブランドの安物は使いにくいので買わない方がいいです。
あると作業効率がアップする工具
ないと作業ができない、という事はほとんどないがあると作業が楽になる工具達です。
【T型レンチ】
早回し系ハンドツールといえばT型レンチをおいて他にありません。
トルクもそこそこかける事ができ、一度ネジを緩めてしまえば後は高速回転でボルトナットをスルスルと外すことができます。
ソケット式のT型ハンドルを買えばサイズも揃えやすいのでおすすめです。
特に1/4インチサイズのT型ハンドルとソケットは小型軽量なので、細かい作業において抜群の機動性を発揮します。
画像の上のものは、スライドハンドルとエクステンションバーという二つの工具を組み合わせてT型ハンドルを作ったもので、携行や収納に便利ですが回しやすさは一体型より劣ります。
【ラチェットハンドル】
ボルトナットが固くて指で回らない、しかも場所的にT型レンチが使えない、となるとメガネレンチやオープンレンチを何度もかけ直して回す羽目になってしまいますが、ここで救世主のように登場するのがラチェットハンドルです。
一方向にしか回らない歯車が内蔵されている機械式ソケット式ハンドルで、工具をかけ直すことなくカチャカチャと動かすことでボルトを楽に回すことができます。
他のソケット系工具にも言えることですが、ボルトナットの本締めには向いていないので、本締めの際は標準サイズのメガネレンチやトルクレンチを使用しましょう。
※本締め=ボルトナットを適正なトルクで締め込む作業。
ラチェットハンドルは値段がピンキリですが、上級品は耐久性が高く歯車(ギア)が軽く回ります。
安物は歯車の回りが渋くて使い物にならなかったり、回りが軽い場合は耐久性が犠牲になっているので大きな力をかけるとギア飛びして壊れます。
整備作業中にラチェットハンドルがギア飛びすると、身体がひっくり返ったり手を思い切りぶつけたりするので危険です。
【クイックスピンナ】
ボルトが固くて指では回らない、かといってレンチやハンドルを使う程のトルクは必要ない、という中途半端な状況で活躍する小型工具です。
単体でも使えますがラチェットハンドルと組み合わせることで、ボルトを緩める時に最初はハンドルを使い、少し緩んだらクイックスピンナ部分を使ってクルクルと早回しするという応用技も可能です。
安価なわりに応用範囲が広い工具なので持っておいて損はないと思います。
【ギアレンチ】
メガネレンチのメガネの部分に歯車を仕込んだ機械式メガネレンチです。
機能的にはラチェットハンドルと同じですが、厚みが薄いのでラチェットハンドルでは入らない場所のボルトにもアクセスする事が可能です。
ただし、普通のメガネレンチに比べてメガネ部分が幅広になるので、結局狭所のボルトには当てられないということもよくあります。
メガネレンチと同様サイズ別に購入する必要があり、一本当たりの値段もそこそこするので、個人的には優先順位の低い工具だと思います。
工具メーカーはどこを選ぶ?
工具メーカーの話も掘り下げると長くなるので、いくつかの国産メーカーを簡単に紹介したいと思います。
【KTC】
言わずと知れた国産オートモーティブ系総合工具メーカーの代表。
クルマバイク整備に必要な工具を一通りラインナップしており、品質も高いのでKTCの工具を買っておけば間違いはない。
良い意味で標準的なメーカーであり、高級ブランドのネプロスも擁している。
【TONE】
KTCと双璧をなす国産オートモーティブ系総合工具メーカーの雄。
品質が良いだけではなく、工具のデザインにも力を入れていて見ていて欲しくなる魅力がある。
KTCと、どちらを選ぶかはお好みで。
【アストロプロダクツ】
安い値段でそこそこの工具を取り揃えているメーカー。
アストロプロダクツの店舗か通販でしか売っていないが、製品のラインナップが非常に豊富でほぼ何でも手に入る。
KTCやTONEの1/2から1/3の値段で工具が買えるので整備の出費を抑えることができる。
安い上にどれも実用に耐え得る品質なので、取り合えず工具を安くそろえたいが怪しげな安物には手を出したくない、という向きにはぴったりのメーカー。
ただし、実用に耐え得る品質といっても値段なりのものではあるので、ナメかけたボルトや固着したネジに使うにはリスクを感じる。
作業中に「あ、やばそう」と感じたら素直に高い工具を買いに行こう。
似たコンセプトの店舗に「ストレート」がある。
【DEEN】
ファクトリーギアという工具店が展開している工具ブランド。
ラインナップは広くオートモーティブ系総合メーカーといって差し支えないが、自社では製造工場を持たず企画と販売のみを行い製造は他企業に任せているらしい。
オーソドックスなレンチやソケット類の他に、変わった機能をつけたアイデア工具のような製品をよく作っている。
【アサヒツールズ】
オートモーティブ系メーカーではないが、レンチやソケットなど基本的なハンドツールは一通り揃えている老舗工具メーカー。
クルマバイク業界では軽量化を重視して開発された「ライツール」が人気。
信用できる品質でホームセンターでの実売価格が安いのも魅力。
【コーケン】
世界的に有名なソケット系工具の専業メーカー。
さすがに専業メーカーだけあって、ソケット系工具へのこだわりとラインナップの豊富さは他メーカーの追随を一切許さない。
品質も実用性も高く、整備士や工具好きの間では常に一目置かれている感がある。
【東日製作所】
トルク管理機器の専業メーカー。
こちらも専業メーカーだけあって、トルクレンチのラインナップは随一を誇る。
といっても、一般のバイク整備で使うのはプリセット型トルクレンチだけだろうが、しっかりしたトルクレンチが欲しいなら東日製を選ぶといいだろう。
工具セットはお得?
工具はバラ売りの物を一本づつ買い集める以外に、セット売りされている物を最初にまとめて買っておく選択もあります。
KTCやTONE、アストロプロダクツ等から出ている工具セットならば、一通りバイクの整備に使う基本工具がセット内容として工具箱の中に入っています。
値段が数万円することや、セット内容の中には自分のバイクでは使わないものがいくつか出てくることを差し引いても、バラで一つずつ揃えるよりは安上がりになるはずです。
工具業界の慣例で11~4月頃にかけて値引きセールの時期になるので、購入するならセール時期を狙った方が良いでしょう。
市販整備本やサービスマニュアルは必要?
さて、整備を行うには工具だけではなく情報も必要です。
現在はネットでも様々な情報が手に入りますが、内容が玉石混交なので最初は書籍に頼ることをおすすめします。
市販整備本は、初心者向けに一般的な整備の方法について丁寧に書かれています。
工具の使い方や整備の際の注意点なども書いてあるので、初心者にとって優しい内容になっています。
市販整備本は書店やネット通販で1000~3000円程度で買う事ができます。
一方サービスマニュアルは、バイクメーカーが作成した車種専用の整備手引書なので、その車種の整備内容について全て具体的に書いてあります。
ただし、基本的に整備士向けのマニュアルなので初心者に親切な内容ではありません。
例えると、「ボルトを外す」とは書いてあるけど、どの工具を使ってどう外すかは一切書いていないという具合です。
値段が1万円以上するので手を出しづらいところですが、整備に必要な指定トルクはサービスマニュアルにしか載っていません。
そこでおすすめなのは、市販整備本を買って指定トルクはバイクを買ったバイク屋さんに訊くという方法です。
もちろんバイク屋さんには整備情報まで教える義務はないので教えてくれる保証はありませんが、普段から定期点検を頼んだり用品を注文したりして関係を築いておくと教えてもらいやすいと思います。