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【バイク全般】エンジンオイルが劣化すると起きること。

エンジンオイルの交換、ちゃんとしてますか?

 

エンジンオイルの交換と言えば、バイク整備の基本中の基本!

初心者ライダーが最初に挑戦してみる整備の代表格ではないでしょうか?

しかし、その知名度に比べてエンジンオイルを交換しないまま走るとどんな不具合が起きるのかについて具体的に知っている人は少ないように思われます。

エンジンオイルは使用することにより消費/劣化し、劣化したオイルはエンジン内のパーツの摩耗、汚れの付着や抵抗増大による走行性能の低下を招きます。

今回はエンジンオイルの劣化と症状について、少し掘り下げて説明したいと思います。

 

【目次】

【エンジンオイルの役割】

エンジンオイルの主な役割は、潤滑(摩擦と摩耗の低減)、密封、洗浄分散、冷却、防錆です。

基となるベースオイル(基油)に様々な添加剤を加えることで必要な性能を保っています。

 

潤滑・・・エンジン内部の部品の表面に油膜を張ることで、部品同士の摩擦と摩耗を低減している。オイルの劣化により粘度が下がると油膜が切れて潤滑できなくなる。

主に動弁機構、ピストンとシリンダー、クランク軸、トランスミッションを潤滑している。

 

密封・・・ピストンとシリンダーの隙間をオイルで塞いで、燃焼室の密封を保っている。オイル粘度低下やピストンとシリンダーの摩耗で密封性が落ちると燃費の悪化やパワーダウンにつながる。

 

洗浄分散・・・エンジン内の汚れをオイルに含ませてエンジンの部品に汚れが固着することを防ぐ。オイルに含ませられる汚れの量には限界があり、限界を超えるとエンジン内の部品に汚れが固着してしまう。

 

冷却・・・エンジン内でオイルが循環することでエンジンを冷やしている。過度の熱はエンジンの大敵。

 

防錆・・・サビ防止。エンジンに限らずバイクの部品が錆びて良い事は何もない。

 

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↑ エンジン内部のしくみ。

動弁機構(カム)、ピストンとシリンダー、クランク軸はエンジンオイルの劣化で特に損傷や摩耗が発生しやすい。

※画像はホンダの公式サイトより。

 

【ベースオイルと添加剤とは?】

ベースオイル(基油)は原油を蒸留することで作られるオイルで、鉱物油と化学合成油の二種類があります。

原油を350℃に加熱し、LPガス、ナフサ、灯油、軽油など沸点が異なる成分ごとに回収されていき最後に残油が残ります。

化学合成油はナフサから合成され、鉱物油は最後に残った残油から精製されます。

 

ベースオイルだけではエンジンオイルとして使えないので、様々な添加剤を加えることでエンジンオイルが完成します。

 

  • 酸化防止剤・・・酸化生成物を安定化させることでオイルの酸化劣化を抑制する。
  • 粘度指数向上剤・・・オイルの温度による粘度低下を抑制し、粘度を安定させる。
  • 洗浄分散剤・・・ススや汚れをオイルに取り込み、金属面への付着を防ぐ。
  • 摩擦調整剤・・・パーツ同士の摩擦を減らし、摩耗やノイズを小さくする。
  • 極圧剤・・・パーツ同士の高圧接触を防ぎ、摩耗や焼き付きを防ぐ。
  • 防錆剤・・・金属表面に膜を張りサビを防ぐ。
  • 消泡剤・・・オイルの泡立ちによるオイル切れや油膜切れを防ぐ。
  • 流動点硬化剤・・・低温でオイルが固まらないようにする。

 

添加剤の効力は永久ではなく、機能することで消費され効果を失っていきます。

また、各添加剤の成分は、熱やせん断、水分によって劣化するものがあります。

添加剤が消費や劣化により効果を失うと、エンジンオイルの性能低下が急加速します。

 

【エンジンオイルの劣化要因】

・熱と酸素による酸化反応

ベースオイルや添加剤は熱と酸化反応によって、成分の分子同士が結合(重合)を起こしてしまいます。

※ベースオイルより添加剤の方が熱に弱いため添加剤の方から早く劣化する。

分子同士が結合するとオイルの粘度が上がって抵抗が増え、最終的にはベトベトのタール状に変化して潤滑不良を起こすようになってしまいます。

また、酸化によって生成された酸化劣化物はエンジン内の錆びの原因にもなります。

酸化は酸化防止剤により抑制されていますが、エンジンオイルに水分が混ざると酸化防止剤加水分解されてしまい早期に効力を失います。

 

機械的なせん断

エンジン内の金属パーツ同士が強く擦れ合う際に、ベースオイルや添加剤の分子が引きちぎられてしまうことをせん断と呼びます。

特に粘度指数向上剤はせん断に弱くオイル粘度の低下を招きます。

オイルの粘度が低下すると、燃焼室の密封が保てなくなり圧縮が抜ける、油膜が維持できなくなり潤滑性能が低下する、といった問題が起きてしまいます。

また、せん断された粘度指数向上剤はスラッジ化しエンジンを汚す原因にもなります。

 

・未燃焼ガス(ガソリン)の混入

混合気がエンジン内で完全に燃焼することはなく、未燃焼ガス(ガソリン)の一部はオイルに混ざってしまいます。

オイルにガソリンが混ざると粘度の低下が起こり、それが高熱になりスス(カーボン)や汚れ(スラッジ)になると今度は粘度を上昇させてしまいます。

未燃焼ガスの混入はシリンダー内でも起きますが、ブローバイガスからも起こります。

※ブローバイガス=摺動するピストンとシリンダーの隙間からクランクケース内に漏れ出てくるガスのこと。

 

ススや汚れはエンジン内のパーツに固着することで抵抗を増やしたり、燃焼効率を悪化させたりしてエンジンの調子を悪くしてしまいます。

エンジンオイルには混入したススや汚れを固着させない洗浄成分が含まれていますが、交換を怠ったり粗悪なオイルを使用したりすると洗浄が不十分になりエンジン内が汚れてしまいます。

 

なお、ガソリンはキャブレターの不具合で大量に混入することもあり、そうなるとオイルは粘度を失い強いガソリン臭を放ちます。

多量のガソリンはオイルを劣化させるだけでなく、クラッチ板やシール類を傷める原因にもなります。

  

 ・水分の混入

ブローバイガス中の水分や結露によってオイル内に水分が混入します。

水分の混入はオイルの泡立ちと酸化を促すほか、添加剤の加水分解やサビ発生の原因にもなります。

オイルと攪拌されることで白っぽくてドロドロとした乳化物を発生させ油路の詰まりを起こす場合もあります。

不飽和エステル系のエンジンオイルは水分によって分解が進むので注意しましょう。

また、冷却系のシール不良によりクーラント液がエンジンオイルに混入すると、粘度低下と乳化による白濁が著しくなります。

 

・金属粉やスス(カーボン)の混入

エンジン内のパーツ同士が擦れ合うことで微細な金属粉が発生します。

オイルの潤滑性能が不足すると摩耗が早くなり金属粉も発生も多くなります。

また、ガソリンやオイルが不完全燃焼することでスス(カーボン)が発生します。

これらの金属粉やススは硬い物質なので、オイルに混入するとエンジン内のパーツを削る原因となり摩耗を早めてしまいます。

エンジン内が摩耗するとさらに金属粉が発生し、それがまた摩耗を早めるという悪循環になってしまいます。

 

【エンジンオイル劣化による機械的な症状】 

・エンジン内パーツの摩耗やカジリ。

粘度低下によって油膜が切れる事でエンジン内パーツ同士の摩擦抵抗が増え摩耗やカジリが発生してしまいます。

この症状が最初に発生しやすいのが動弁機構でカムがカジリを起こします。

次いでピストンとシリンダー表面に傷がつく、クランク軸やトランスミッションが擦り減るといった症状が発生します。

 

・燃費の悪化、パワーダウン。

粘度が上昇するとオイルによる抵抗が増えるのでパワーや燃費が悪化します。

逆に粘度が低下すると、燃焼室の密閉性が悪くなることでパワーや燃費が悪化する場合があります。

 

・オイルが減る、マフラーが白煙を吐く。

オイルの粘度低下やピストンの摩耗で密閉性が悪くなると、オイルが燃焼室に入り込んで燃えることで白煙を吐きオイルの消費が多くなります。

さらに燃えたオイルはススとなり、燃焼室や排気経路を汚します。

ブローバイガスも増えるので燃費が悪化しオイルの劣化も進みます。

ちなみに、冬季のエンジン始動直後にマフラーが吐く白煙は水蒸気なので異常ではありません。

 

・汚れやサビの発生。

オイルの洗浄分散能力には限界があり、限界を超えてススや汚れがオイルに混ざると洗浄分散されずにエンジン内パーツに固着するようになります。

エンジン内に汚れが固着すると、オイル循環の阻害、吸排気の阻害、燃焼効率の悪化、蓄熱など不要なトラブルの原因になってしまいます。

また、防錆性能が落ちたオイルに水や酸化物が混ざるとエンジン内パーツのサビの原因になります。

 

・エンジンの焼き付き。

エンジンオイルの極度の劣化、汚れや乳化物によるオイル経路の詰まりを放置すると、最悪の場合エンジンが焼き付いて完全に壊れてしまいます。

焼き付き=金属製のピストンとシリンダーが潤滑されないまま摩擦することで超高温になり金属が溶着してしまう現象。

修理は可能ですが、エンジン内の部品を交換することになるのでかなり高額になります。

エンジンの焼き付きは冷却系の不具合(ラジエターの詰まりや冷却水の不足)でも発生します。

 

【エンジンオイル劣化による体感的な症状】

・シフトチェンジのフィーリングが悪化する。

左足のシフトチェンジの感触が渋くなりギアの入りが悪くなります。

オイルの温度が高くなると起きやすく、同じバイクで同じオイルを使って同じような環境で走っていると、大体同じ走行距離で発生します。

 

・エンジンの摩擦抵抗が増え加減速でギクシャクする。

エンジン内の抵抗が増えることで、加速やエンジンブレーキのフィーリングに抵抗感やギクシャク感が出ます。

低速ギアで走るとわかりやすく、アイドリング付近での駆動も不安定になるため低速ターンが安定しなくなります。

 

・パワーダウン。

加速が鈍くなります。

 

・音や振動がうるさくなる。

オイル粘度低下によりエンジンの音や振動がうるさくなり、エンジンの回転フィーリングも抵抗が増しガサツな感じになります。

 

※フィーリングが悪化したということは確実にエンジンオイルが劣化したということなので、それでオイルの交換時期を判断しても良い。

ただし、フィーリングが悪化しない(感じない)ことがオイルの状態を保証するわけではないので、フィーリングが悪化しないからといって交換を先延ばしにするのはNGです。

 

【エンジンオイルを劣化させないためには…】

エンジンオイルはどんなに気を付けていても必ず劣化していくが、なるべく劣化を遅らせる方法はあります。

 

・温度を上げ過ぎないこと。

既に書いたようにエンジンオイルは熱に弱いので、温度を上げ過ぎないようにするのが重要です。

走り方としては、なるべく高いギアで回転数を低く維持して走ると温度が上がりにくくなります。

冷却水が古くなっていたりラジエターコアのフィンが潰れていたりすると温度が上がりやすくなるので、冷却系に問題があればメンテナンスを行いましょう。

古い冷却水は交換し、フィンの潰れは工具で修正します。

 

サーキット走行など敢えて過酷な条件で走る場合は、ラジエターコアの大型化や増設といった対策もあります。

ただし、冬季はオーバークールになりやすいので、それへの対策も必要になります。

オーバークール=エンジンの冷え過ぎ、オイルの流動性が悪くなることでエンジンに損傷が発生する。

 

水温系や油温計で視覚的に温度管理をするのも有効。

水温ならば65~70℃前後、オイルパン油温ならば85~90℃前後が適正温度です。

しかし、あまり気にし過ぎて走行中に温度計をチラチラ見ると危ないし、走っていても楽しくないので、温度を気にするのは程ほどにして熱くなる状態が続いたら次のオイル交換を早めに行う事で対策しましょう。

 

・エンジンを適度に暖めること。

エンジンオイルの温度は低ければいいかというと、そうではない。

エンジンオイルとエンジンは適正な温度まで上がることで本来の性能を発揮します。

また、温度がしっかり上がることで混入した水分を蒸発させて外に排出しています。

ちょい乗りの繰り返しがエンジンに悪いと言われる理由は、エンジンオイルが十分に温まらないために混入した水分が抜けなくなるからです。

 

・定期的なオイル交換を怠らない。

いくら気を付けてもオイルが劣化すること自体はどうしようもありません。

劣化したオイルは早めに交換しましょう。

バイクの取り扱い説明書には推奨交換時期として「6000kmまたは1年に一回」などと記載があるものの、使用状況によって劣化は早くなります。

多くのライダーはメーカー推奨時期の半分くらいのタイミングで交換していると思います。

 

当然サーキット走行など過酷な条件で走っているなら、もっと早めの交換が必要になります。

※参考として、ホンダCBR250RR(MC51)の公道仕様車の推奨交換時期は6000kmに一回だが、レース仕様車の推奨交換時期は800kmに一回となっている。

 

【まとめ】

バイクのエンジンは、エンジンオイルによって性能を発揮し同時に保護されています。

言い換えればエンジンオイルを管理するという事は、エンジンそのものを管理することに他なりません。

オイル交換をしっかり行っていれば汚れの付着はほぼ防止できるし、摩耗の進行も遅らせることができます。

バイクのサービスマニュアルにはエンジンパーツごとの摩耗限度が指定されており、摩耗限度に達したパーツはオーバーホールで要交換となるわけですが、オイル交換次第でオーバーホールまでの期間が長くもなり短くもなるわけです。

より長く、より気持ち良くバイクで走り続けるために、今まで以上にエンジンオイルの管理に気を配ってみてはどうでしょうか。

 

 

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