ホンダ「CB250R」を10倍たのしむブログ

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【バイクのタイヤと空気圧の基礎知識】 適正空気圧はどうやって決める?

バイクのタイヤにとって空気圧は、ライディングの安全と楽しさにとって非常に重要な意味を持っていますが、同時に多くのライダーにあまり知られていない情報でもあります。

 

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※画像はブリヂストンの公式サイトより。

 

巷ではバイクのタイヤの適正空気圧について「常に指定空気圧にすべき?いや、サーキットでは下げるのが常識!じゃあ峠ではどうなんだ?」などなど、様々な議論が交わされているようです。

では、そもそもタイヤの空気圧を変えることで何が起こるのか?

 

答えは「タイヤの剛性が変わる」…です。

タイヤの空気を抜くと外から力を加えた時にへこみやすくなり、逆に空気をパンパンに入れると反発力が増しへこみにくくなります…実に単純な話ですね。

 

しかし、タイヤの剛性が変わることでライディングにとって無視できない影響が数多く発生します。

今回は、そんなタイヤと空気圧についてのお話しです。

 

【目次】

 

 

【タイヤが耐えることができる荷重の限界値が変わる。】

最も重要な要素がこの負荷荷重能力で、タイヤの強度(安全)に直接関係します。

そのタイヤが走行中において何kgの重さまで耐えられるのかという性能で、「荷重指数(ロードインデックス、LI値)」という値で表示されます。

「荷重指数」は必ず「速度記号」及び「空気圧」と同時に読む必要があり、空気圧を〇〇kpaに設定し時速〇〇kmで走行した時に荷重〇〇kgまで耐えられる、というふうに解釈します。

 

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↑ 公道用タイヤのサイドウォールには画像のような表記がある。 

画像の150/60R17M/C 66H の表記の場合は、荷重指数(ロードインデックス)が「66」、速度記号が「H」となります。

速度記号とは、そのタイヤが耐えることができる最高速度を意味します。

 

H → 210km/h  V → 240km/h  W → 270km/h超

 

最高速度は速度記号によって固定されますが、負荷能力は空気圧によって変動します。

 

例として、ホンダCB250Rの指定タイヤ(GPR-300)の表記と指定空気圧を見てみましょう。

フロント 110/70R17M/C 54H (指定空気圧200kPa)

リア   150/60R17M/C 66H (指定空気圧225kPa)

…について見てみます。重要な記号は54H66H指定空気圧の部分です。

 

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日本自動車タイヤ協会の規格表を確認すると、空気圧ごとの負荷能力は上の通りになっています。

つまり、ホンダCB250Rに指定タイヤを装着して指定空気圧で走行した場合、

 時速210km走行時において、前輪155kg 後輪250kg まで耐えられるという事になります。

ちなみに、200kPa未満および280kPa超は規格外の空気圧となるので、負荷能力の保証はありません。

 

もし、このタイヤで210km/hを超える速度を出す、または負荷能力を超える荷重を与えて走り続けてしまった場合はどうなるのか?

答えはタイヤ内部の温度が異常に上昇してしまい、タイヤのトレッドとベルトが剥がれてしまう「セパレーション」という現象が発生する可能性があります(当然事故です)。

 

しかし、それではパワーリフトやジャックナイフ等でタイヤの負荷能力を超えてしまった場合は即危険なのか?

という疑問が浮かぶかと思いますが、負荷能力はあくまで最高速度で走り続けた場合の数値なので、一時的に超えるくらいならば危険はありません。

 

もう一つの例として、ホンダCBR1000RR(SC77)のタイヤも見てみましょう。

フロント 120/70R17M/C 58W (指定空気圧250kPa)

リア   190/50R17M/C 73W (指定空気圧290kPa)

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CBR1000RR(SC77)の場合は、時速270kmを超える走行時において、前輪215kg 後輪365kg まで耐えられるという事です…

ここで、え?時速270kmを超える走行って具体的に何km/hまで?

という疑問が浮かぶところですが、答えは規格上の定めがないので、それぞれのタイヤごとにタイヤメーカーに問い合わせるしかない、となります。

 

 

空気圧に関して「むやみにタイヤの空気圧を下げるべきではない」「公道では指定空気圧を遵守すべき」といった意見は、以上の理由を踏まえてのものです。

上で解説したとおり、規格上の下限値の空気圧でも一般的な使用において問題がない程度の負荷性能は持っています。

しかし、規格上の下限値を下回った場合、またはタイヤの摩耗が限界を超えた場合は実際に危険な状態になり得ますので、十分に注意する必要があります。

逆にいえば、速度記号と荷重指数を理解した上であれば、適切な範囲で空気圧を下げても問題はないということです。

 

※荷重指数(ロードインデックス)と速度記号(スピードシンボル)の詳細な一覧は、タイヤメーカーの公式Webサイトに掲載されているので確認してみましょう。

タイヤサイズ表記の見方|二輪車用タイヤ | 株式会社ブリヂストン

ただし、空気圧に対する負荷能力の一覧は、日本自動車タイヤ協会が発行する「JATMA YearBook」にしか載っていないと思います…

JATMA YEAR BOOK |刊行物|一般社団法人 日本自動車タイヤ協会 JATMA

 

【タイヤの転がり抵抗が変わる。】

自転車に乗っている方は経験があるかと思いますが、タイヤの空気が減るとペダルが重くなりスピードを出しにくくなります。

これはタイヤの空気が減ったことで、タイヤが転がる際の変形が大きくなり抵抗が増したためです。

では、ペダルに大きな力(エネルギー)を与えてもスピードが出ないとなると、ペダルに与えたエネルギーは一体どこに行ったのでしょうか?

 

答えは「タイヤ内部の熱に変換された」…です。

 

タイヤが転がって変形するとゴムが揉まれます、ゴムは揉まれると分子同士が伸縮し熱を発生させます。

エンジンから後輪に伝えられたパワーをタイヤが熱に変えてしまう分、速度(加速と最高速)と燃費が悪化してしまいます。

 空気圧を下げるとタイヤが適正な温度まで温まりやすいという効果もありますが、発熱量が多くなり過ぎるとグリップの低下やタイヤ損傷の原因になってしまいます。

 

逆に空気圧を上げた場合は、転がり抵抗が小さくなり速度や燃費は良くなる傾向になります。

 

【衝撃吸収性が変化し、乗り心地が変わる。】

タイヤはトレッドサイドウォールが撓んで変形することで、路面から受ける衝撃を吸収しています。

タイヤの空気圧を下げると変形しやすくなるので、凹凸での衝撃をよく吸収し乗り心地が良くなります。

ただし、低すぎると腰砕けになりスロットルのON/OFFでも車体が前後にギクシャク揺れて乗り心地が悪くなる場合があります(ミシュランのタイヤに多い気がする)。

 

空気圧を上げると、路面からの衝撃はあまり吸収されずサスペンションから上に伝わるのでコツコツとした硬い乗り心地になります。

 

【グリップ力と旋回力が変化する。】

タイヤの接地形状は荷重によって変形し、接地面でゴムが伸縮振動することでグリップ力を発生させています。

そして、荷重が同じならば路面と接地する面積が広いほど摩擦係数が上昇するという特性も持っています。

以上のことから、タイヤの空気圧を下げると変形量が大きくなり接地面積が増えるので、グリップ力の最大値は上がります。

感覚としてのグリップ感や、タイヤが滑った時のスライドコントロールも良くなる傾向になります。

 

では、空気圧を下げれば下げるほどグリップ力が増し速く走れるようになるのだろうか?

 

答えは「空気圧を下げ過ぎると他のデメリットが増大し、まともに走れなくなる。」…です。

まず、タイヤの変形が大きくなり過ぎることで速度が落ちるだけではなく、ハンドリングがまともでなくなります。

特にフロントタイヤの空気圧が低すぎると、コーナーの進入が安定せず軌道のコントロールが困難になります。

そして、タイヤの剛性が低下することでコーナリングフォースが弱くなり曲がらなくなります。

さらに接地感が悪化する、タイヤの発熱量が増し熱ダレすることでヌルヌルと滑り出す、といった症状が発生します。

 

コーナリングフォース(旋回力)=旋回中のタイヤが内側に向きを変えようとする力。タイヤのグリップ力が高くなると増す、剛性や荷重によっても変化する。

 

【ハンドリングが変わる。】

見落とされがちですがライディングにとってとても重要な要素です。

ハンドリングが悪い(馴染めない)と速く走ることはもちろんのこと、気持ちよく走ることも安全に走ることもできません。

 

特にフロントタイヤの空気圧がハンドリングに与える影響は大きく、低すぎると高速コーナーの進入で軌道のコントロールができず、低速では前輪が切れ込んで素直に曲がれない、といった症状がでます。

リアタイヤでも空気圧が低いと、倒し込みや切り返しが重く(遅く)なる傾向が出ます。

逆に空気圧が高いと、切り返しやフロントの動きが軽くなる反面、グリップ力やグリップ感が希薄になる、凹凸で跳ねる、などの症状が発生します。

 

スポーツ走行においては、タイヤの空気圧が20kpaも違えばライディングの印象が相当に変わる事もよくあります。

いろいろ試してみて、一番走りやすいと思える空気圧を探してみましょう。

 

【タイヤの寿命(ライフ)や排水性能が変わる。】

タイヤの空気圧はタイヤの摩耗の進行具合にも影響を与えます。

不適切な空気圧で走行すると摩耗が早くなったり、偏摩耗が発生する原因になってしまいます。

実は路面との相性もあって、コースの路面(舗装)が変わると偏摩耗が発生し始めることがあります。

そういった場合は、タイヤの空気圧やサスペンションの調整を行って改善を試みます。

 

また、空気圧が低いと水たまりの上を走った時にハイドロプレーニング現象が起こりやすくなります。

タイヤの接地面は中央部分がやや低圧になるのですが、その部分が大きくなって水が入り込みやすくなるのが原因です。

 

【結局のところ、タイヤの空気圧はどうすれば良いのか?】

・安全第一なら「メーカー指定空気圧」に合わせるのが無難。

「メーカー指定空気圧」とは、バイクの製造メーカー(ホンダやカワサキ)が指定タイヤのために設定した空気圧で、バイクの取り扱い説明書やスイングアームのラベルに記載されています。

荷重や速度に対する耐久性は規格によって定められているため、指定以外のタイヤでもサイズが同じであれば適用して問題はありません。

メーカー指定空気圧に合わせておけば、低空気圧によるトラブルを避けられるので安全に走ることができます。

 

・自分の好みに合う空気圧を探る場合は、負荷能力の許す範囲内で。

今回の記事でも触れたように空気圧の大前提は負荷性能です。

負荷性能が許す範囲で空気圧を調整してみることも面白いと思います。

メーカー指定空気圧ではハンドリングやタイヤの感触がイマイチ、乗り心地が硬い、等といった場合は、好みに合うように空気圧を変えてみましょう。

ただし、特に注意が必要なのは公道でハイグリップ系タイヤを使う場合です。

ハイグリップ系タイヤの中には、そもそも公道での性能が低いものもあり、グリップしない、接地感が弱い、乗り心地が悪いといった問題を改善させようと空気圧を下げていくと気が付いた時には異常発熱や著しい偏摩耗といった問題が発生することがあります。

 

バイク用タイヤの専門ショップでは、個別にアドバイスを行っているところもあるので相談してみるのもよいでしょう。

 

・サーキット走行が目的ならば「サーキット推奨空気圧」に合わせよう。

「サーキット推奨空気圧」とは、タイヤメーカーが自社製造のタイヤ銘柄別に設定したサーキット走行向けの空気圧です。

スポーツタイヤ~レースタイヤに設定があり、ツーリングタイヤにはありません。

一般に公表されている事は少ないので、タイヤメーカーに直接問い合わせて確認してください。

問い合わせる際に「バイクの車種名、タイヤの銘柄とサイズ」を伝えると、「推奨は○○kpaで、好みに応じて±○○kpaの範囲で調整してください」といったかたちで回答してくれます。

メーカーや銘柄によっては、規格の下限値よりも更に低い値を推奨されますが、サーキットでの使用に限って信用して大丈夫です。

 

推奨された空気圧を基準に、微調整を行ってハンドリングやグリップ感、旋回性を確かめながら丁度良い空気圧を探しましょう。

たった10kpaの差でも結構変化しますので、コースや天候の要素も考慮しつつ積極的に試して見ると良いと思います。

 

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