さて、新車のバイクを買ったら慣らし運転を行いますよね?
バイクを納車された時にバイク屋さんからも話を聞くと思います。
今回は慣らし運転をする理由と方法について書いてみたいと思います。
【目次】
【慣らし運転の方法】
一般公道において新車の慣らし運転をする場合は以下の事に注意して運転してください。
・急加速を避ける。
新品のエンジンでいきなりアクセル全開でレッドゾーンまで回すような走り方をすると、エンジン内のパーツを傷つけてしまう恐れがあります。
メーカー別に指定の距離や回転数の制限などがありますので、購入したバイクの取り扱い説明書を読んで確認してください。
・急ブレーキを避ける。
急に強いブレーキをかけると、新品のディスクローターに歪みが発生してしまう恐れがあります。
ディスクローターの歪みはジャターや異音の原因になるので、最初はブレーキを丁寧にかけるようにしましょう。
また、タイヤも慣れていないとグリップを発揮しない場合があるので、急ブレーキで滑ってしまう恐れがあります。
・バイクをあまり深く倒さない。
バイクはカーブで車体を倒して曲がるものですが、あまり深く倒し過ぎるとタイヤが滑って転倒するリスクが増えます。
特に新品のタイヤは慣れるまで滑りやすいので、深く倒して曲がるのは避けましょう。
・かといって、あまりのんびり走り過ぎるのも良くない。
バイクの部品を慣らすには、ある程度の負荷をかけて積極的に動かしてやる必要があります。
なので、直線道路を一定速度で走り続けていても効果的な慣らしは出来ません。
なるべくギアチェンジを行って、急にならない範囲でメリハリのある加減速を行ってください。
減速も前後のブレーキとエンジンブレーキを利用して行いましょう。
そうすることで、エンジンやトランスミッションだけでなく、サスペンションやタイヤもよく慣らすことが出来るようになります。
【慣らし運転をする理由】
【エンジン内部やサスペンションなど部品同士が擦れ合う部分】
新車のバイクの各部品には工場で製造された時にできた微細な凹凸が残ったままになっています。
この部品同士の微細な凹凸を実走で徐々にすり合わせる事で均していき、余計な摩擦抵抗を減らし部品同士のクリアランス(隙間)を適切に保つ事が慣らし運転の目的です。
新しいエンジンに急激な負荷を掛けると部品が傷んでしまうおそれがあるので、慣らし期間中は適度な負荷で運転を行う必要があります。
エンジンは新車時のほか、オーバーホール後も慣らしが必要となります。
サスペンションに関しては走行中に自然に慣れていくだけなので、慣らしとして特別に注意することはないと思います。
【ブレーキのディスクローターとパッド】
ブレーキについてはディスクローターとブレーキパッドの凹凸の擦り合わせの他に、パッドの摩材をディスク表面に付着させ被膜を作る目的があります。
ディスクに付着した摩材被膜とパッド本体の摩擦により本来の制動力が発揮されます。
パッドを別銘柄に替えた場合は、しばらくの間ディスク表面に交換前のパッドの被膜が残った状態になるので本来の性能が発揮されないことがあります。
パッドを別銘柄に交換する際に、ディスクローターの表面を400番程度のスポンジやすりで軽く研磨することは有効です。
新品のディスクローターに最初から大きな負荷を掛けると、熱と圧力で歪みが生じブレーキジャダー(ブレーキ作動時の異常振動)の原因になる場合があります。
新品のディスクローターで走り出す場合は、しばらくのあいだ強いブレーキはかけないように気を付けてください。
ちなみに最近のバイクのブレーキは鳴きにくいので、パッドの面取りやバックプレートへのグリス塗布はほとんど必要ありません。
不必要な面取りやグリス塗布は、余計な汚れを巻き込む原因になります。
【タイヤ】
新品タイヤのコンパウンド(ゴム)は分子同士が緊張状態にあり本来の性能を発揮しません。
走行負荷を与えてタイヤを撓ませ内部発熱させることによりゴムの緊張をほぐします、ゴムの緊張がほぐれると外径成長といってタイヤの寸法が少し膨らみます。
また、新品タイヤの表面部分は製造時の熱によって出来た表皮になっています。
この表皮部分は路面上を走行する事で削られていきます。
必要な慣らし期間はタイヤによって違いがあるようで、レースやサーキット走行を主目的とするタイプのタイヤはごく短時間(サーキット数周以内)で慣らしが完了します。
公道走行を主目的とするタイヤの場合は、もっと長い期間が必要です。
タイヤメーカーは慣らしの期間の目安を100kmとしていますが、効率よく負荷をかける走り方ができれば距離を短縮することができます。
メリハリのある加速と減速(ブレーキ)を行い、バンク角を少しずつ深くしていく事で効率よくタイヤに負荷を与えることができます。※公道ではくれぐれも無理な運転はしないでください。
タイヤを慣らす事で、グリップ力や接地感、乗り心地やハンドリングといった性能が本来のレベルまで発揮されます。
特に新品のハイグリップタイヤを履いた時は慎重に走り出しましょう。
新品のハイグリップタイヤは慣らしが済んでいない上に、温まらないとグリップを発揮しないので走り出し直後は簡単に滑ります。
バイク屋さんから車道に出た途端に滑ってこける人も実際にいます…
製造メーカーによっては新品タイヤの表面に離型剤が残っている場合があります。
これは、さほど滑る原因にはなりませんが、しばらく走ることですぐに落ちます。
また、使用後長く放置しているとタイヤ表面に青い油分(老化防止剤)が滲み出ることがあります。
こちらもしばらく走ることで落ちるので、それほど気にする必要はありません。
【ドライブチェーン】
新品のドライブチェーンには初期伸びという現象があります、慣らし後にチェーンの点検を行ってたるんでいるようなら調整を行ってください。
【メーカー別 慣らし運転の例】
具体的な慣らし運転の方法はメーカーによって違うのでバイクの取り扱い説明書を読んでみましょう。
ホンダの公式サイトとバイクの取り扱い説明書には以下のように記載があります。
・適切慣らし運転を行うと、お車の性能をより良い状態に保つことができます。
・500kmを走行するまでは急発進、急加速、急ブレーキ、急なシフトダウンを避け、控えめな運転をしてください。
しかし、同じホンダの公式サイトには次のような記載もあります。
・現在の車は、エンジンやその他の部品精度が向上しているため、慣らし運転を行う必要はありません。しかし、エンジンや駆動系の保護の為には、以下の期間中は急発進や急加速を避け、控えめな運転をしてください。
50ccスクーター(ジャイロ含む) →走行距離100km
その他バイク(50cc含む) →走行距離500km
ヤマハのバイクの取り扱い説明書には以下のように記載があります。
・初回1か月目(または1000km点検時)までは、慣らし運転をしてください。慣らし運転中はエンジン回転数を〇〇〇r/min以下で走行してください。また不要な空ぶかしや急加速、急減速はしないでください。慣らし運転を行うと車の寿命を延ばします。
・・・ヤマハのバイクの場合はホンダのバイクの二倍の距離を走らなくてはならないみたいです。さらに回転数制限もありますね。
※回転数制限は最高回転数(レブリミット)の6~7割の値に設定されているみたいです。
ちなみにヤマハの逆輸入車の和訳参考書には以下の説明が記載されています。
・エンジンの寿命において最も重要な時期は走行距離0~1600km(1000マイル)の期間です。新車を運転する時は下記の注意をよく守ってください。新品のエンジン[初回1600km未満]に過度の負荷をかけるのは禁物です。この時期、エンジン内部のパーツは互いに磨かれ、やがて適度なクリアランスが得られるようになります。したがってスロットルを長時間全開にしたり、エンジンがオーバーヒートを起こすような走り方は避けてください。
0~1000km 6900rpm以上で長時間走行しないでください。
1000~1600km 8300rpm以上で長時間走行しないでください。
・・・逆輸入車の和訳参考書のほうが国内仕様の取扱説明書より説明が詳しいようですね…
カワサキのバイクの取り扱い説明書には以下のように記載があります。
カワサキの125ccを買うと回転数縛りで1600kmも走らなければならず、なかなか辛い思いをします…
スズキのバイクの取り扱い説明書には以下のように記載があります。
新しいタイヤはスリップしやすいので車を深く倒さないでください。
倒す角度は徐々に大きくしてタイヤを慣らしてください。
不必要な空ぶかしや急加速、急減速、急ハンドル、急ブレーキは避けてください。
・・・大体ヤマハと同じ内容です。タイヤの慣らしについて言及しているのが特徴的ですね。
以上、基本的なバイクの構造はメーカーに関わらず同じですが、慣らし運転の方法にはそれぞれ差がありますね。
メーカーによる製造精度の違いのためなのか?単なる見解の差なのか?
しかし、基本的には公道で慣らし運転を行う場合は、指定の走行距離に達するまで急な運転を避けて大人しく走ることが大事なようです。
【サーキットでの慣らし運転の方法】
公道では気長に500kmでも1600kmでもツーリングでもしながら慣らし運転を続ければ良いですが、サーキット専用バイク(←公道を走れない)でサーキットでそんな距離を走ろうとすると高い走行料金を払って何日も通わなければなりません。
もちろん、慣らし運転のために何日もサーキットに通ったりはしません。
サーキット専用バイクの慣らし運転は以下のように行います。
1.エンジンの暖気を行う。4ストロークエンジンの場合は水温65℃程度が適温です。
2.走行はなるべく高いギア(5速6速)でスロットルを大きく全開にする。回転計が設定回転数に達したらスロットルを全閉にして、回転が下がったら再度全開にする。これを繰り返す。
全閉→全開の際に回転を落とし過ぎてノッキング(エンジンからガタガタ振動が発生する現象)を起こさないように気を付けましょう。
※設定回転数は最初は最高出力発生回転数の半分程度で、大体20~30分ごとに1000rpmずつ上げていきます。なるべく高いギアを使用するのはエンジンに適度な負荷を与えるためです。
また、ブレーキは強くかけないように気を付けます。
上記の方法で一日で効率よくバイクの慣らしを行う事ができます。
サーキットの走行ライセンスとレーシング装備一式があれば、ナンバー付きの一般車両でもサーキットで慣らし運転を行う事は可能です。
サーキットで慣らし運転をする時はサーキットの人に慣らし運転をしたいと伝えてください。絶対に勝手に行ってはいけません。
それと公道で同じ事を行うと迷惑で危険なのでやめましょう。
【シャーシダイナモを使用する方法】
やや特殊な方法としてシャーシダイナモを使用する方法もあります。
シャーシダイナモとは車やバイクを上に載せて実際に運転することで、エンジン出力や空燃比などの測定を行うことができる大型の装置で、主にパーツ開発や車両の状態の確認、エンジンのセッティングを行う際に使用されます。
実際に走るわけではありませんが、実走に近い状態を再現できるため慣らし運転にも利用できます。
シャーシダイナモによる慣らし運転を取り扱っているお店は少ないですが、料金的にはサーキット走行に比べてそれほど高額ではありません。
シャーシダイナモを使用する利点としては実走しないので交通事故の心配がないことと、完全に計画的な運転操作が可能なことでしょう。
欠点を挙げるとすれば、ブレーキやタイヤの慣らしまでは出来ない事でしょうか。
【輸入車や輸出仕様車の場合】
輸入車とは海外の工場で製造されたバイクの事で、輸出仕様車(逆輸入車とも言う)とは日本国内の工場で製造された輸出用のバイクの事です。
国産車・・・日本国内の工場で製造された車両。
輸入車・・・海外の工場で製造された車両。
逆輸入車・・日本国内の工場で製造されたものを、一度海外の港に輸出して再度日本に輸入した車両。
なぜ、逆輸入という面倒なことをするのかというと、輸入車扱いにする事で外国の規制に合わせたバイクを国内で販売できるからです。
上記のヤマハの例のように輸出仕様車の和訳取扱説明書には国内仕様車とは少し違う説明が書いてあったりします。
下記のサイトによると欧州車の取扱説明書の原文にはこんな事が書いてあったりするみたいです。
サーキットでの慣らし方法とほとんど同じ内容になっているみたいです。
慣らしの方法としては正しくても公道での迷惑運転を唆しかねない内容なので、国内メーカーはこのようには書かないでしょう。
日本と欧州の社会風土の違いなのかも知れませんね。
※今回の記事は、バイクの取扱説明書、メーカーの公式サイト、JATMA発行の資料、雑誌に掲載されたメーカー開発者の執筆記事の内容に、私自身の経験を少し加えて構成されています。